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BOOK 世論喚起のため…エンタメ側から積極的安楽死を深堀り ALS患者安楽死事件がモチーフ 中山七里さん『ドクター・デスの再臨』

zakzak by夕刊フジ 2024年7月20日 15時0分

中山七里さんのアタマにはどれだけのアイデアが詰まっているのだろう。違うテイストの新作を連発し、ケタ外れに面白いときてる。今度は安楽死を題材にしたヒット作『ドクター・デス』の続編。社会に激論を巻き起こすこと必至の医療ミステリー!

――京都で起きたALS患者の安楽死事件(2019年)が「続編」を書くモチーフに

「そうですね。京都の事件だけでなく、積極的安楽死の問題がこれだけクローズアップされているのに、現実世界では、いまだに法整備がされていません。というか、前作(※『ドクター・デスの遺産』2017年、綾野剛主演で映画化もされた)を書いたときから、ほとんど進んでいないのです。だったら、エンターテインメントとして、もう一歩踏み込んで〝深掘り〟した切り口で書けるのかなと…」

――積極的安楽死の法整備が進まないのは

「『ヒトの死』を法律でどう規定するのか? なかなか難しい問題ですよ。だから(本作には)人道的問題、医学的見地、経済面…あらゆる角度からみた、いろんな意見を物語の中に入れました。いわば世論を喚起するためのエンタメ側からの援護射撃かな。僕の意見ですか? それはまったく入れていないですね。夾雑(きょうざつ)物になるし、声高に自分の主張をするタイプの物書きでもないので」

――(安楽死の)ターゲットのひとりを「国民的女優」にしたのは

「積極的安楽死は、法整備がされない限り、永遠の社会問題のままです。では、どうやったら世論を動かすことができるのか? そこから『逆算』してストーリーを考えました。有名人が安楽死したら、やっぱり社会を騒がすことになるでしょ。モデルですか? まぁ、あの人かな、って想像できますよね」

――ドクター・デス再臨というからには再び〝あの犯人〟と警視庁刑事の犬養隼人が対決する

「心理的対峙かな。それ以上は言えません。ぜひ本を読んでください」

――実際に起きた事件や出来事を小説の題材にすることが多い

「あくまでフィクションなんですけど、いま起きていることや、社会を騒がせている事件を物語に取り入れることで『現実世界との地続き感』が得られると思うのです。本を読む方の没入感も強まりますから」

――ギリギリまで踏み込んだ内容や表現が特長

「ある書評家が僕のことを〝ギリギリ・アウト〟ですって(笑)。表現の自由を声高に叫ぶつもりはありませんが、必要以上の規制とは闘っていきます。エンタメでしか追求できないものを書こうとするときに邪魔になりますからね。とにかく強制されるのはイヤだし、(政治的、外交的な)忖度もしません」

――多作ですね。月産700枚(400字詰め)、寝ない、トイレは1日1回だけ。〝小説の設計図〟というべきプロットは3日で考えるとか

「それでも3時間は寝ていますよ(苦笑)。僕のような才能のない物書きはそういうローテーションでもしない限り生き残っていけません」

――こんな〝売れっ子〟なのに才能がないって

「物書きになるつもりはなかったんです。衝動的に応募した作品が文学賞の最終選考に残ったけれど、ボロクソに批判された。そのリベンジで書いた作品(『さよならドビュッシー』(2009年)がデビュー作となり、なし崩しに作家になっただけです。もっともっと才能のある人はいっぱいいますからね」

――それにしては、司法、医療、音楽、政治…いろんなジャンルを

「森羅万象すべてが僕のテーマなんですよ。ただ、僕は何の経験も専門知識もない。取材も改めてしないし、資料もあまり読みません。これまで見たり、読んだりして頭の中に入っているものを引き出して書く。そういう意味では書くことはラク、手(スピード)は遅いんですけどね」

――あれだけ書いているのに「手が遅い」と…

「遅いですね。往年の松本清張さんは、1日80枚、それも手書きですよ。それに比べたら僕は怠け者もいいところ」

――心をつかむコツは

「読む人にストレスをかけないこと。書き手がラクをすると、読者は苦労する。逆もしかりです。だから、いかにストレスを与えず、退屈せずに最後まで読んでもらうか? 文章はもちろん、改行、記号の使い方まで考えます。それが僕の仕事ですから」

――ペンネームは郷里岐阜県の景勝地から

「覚えてもらいやすいでしょ。サインもしやすいし(笑)。(中山七里は)映画の舞台や橋幸夫さんの歌にもなっていますよ」

――これからも書き続けてゆく

「実は2030年まで執筆予定が組まれてしまっている。それまでは生きていられるかな。まぁ、たとえ途中で死んでも5年くらいは本が出続けるストックがあるんですけどねぇ。ずっと書き続けて、突然動きを止めてしまうような死に方にあこがれます」

(取材・南勇樹 撮影・相川直輝)

■『ドクター・デスの再臨』KADOKAWA 1925円税込み

かつて社会を震撼させた〝安楽死請負医師〟『ドクター・デス』。その模倣犯を思わせる事件が相次ぐ。年老いた国民的女優まで〝その手〟にかかり、騒ぎは大きくなるばかり。安楽死を請け負ったとされる「JKギルド」は一体何者なのか? 以前ドクター・デスと対峙し、辛酸を舐めさせられた警視庁捜査1課刑事、犬養隼人は〝ある人物〟に会うため、拘置所を訪ねるのだが…。

■中山七里(なかやま・しちり) 1961年岐阜県出身。62歳。2009年『さよならドビュッシー』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、翌年作家デビュー。〝50歳前〟の遅咲きながら、緻密に練り上げたストーリーと斬新なアイデアでヒット作を量産。意外性のあるラストで〝どんでん返しの帝王〟の異名も。主なシリーズに『刑事犬養隼人』『御子柴礼司』『岬洋介』などがある。

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