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兼原信克 安倍総理の遺産 対中国「核対峙の時代」に備える「真の日米同盟」とは 安倍総理の遺産、日本独自の反撃能力「通常兵力の大増強」が必要

zakzak by夕刊フジ 2024年7月1日 15時30分

安倍晋三元首相が参院選の街頭演説中に凶弾に倒れて、8日で丸2年になる。安倍氏は当時、ロシアによるウクライナ侵攻や、日本を取り巻く安全保障環境の激変を受けて、「自分の国は自分で守るという『国家意思』を示す必要がある」といい、「憲法9条への自衛隊明記」や「緊急事態条項の創設」「核抑止の議論開始」などを訴えていた。東アジアの情勢は2022年より確実に悪化している。第2次安倍内閣で、国家安全保障局次長を務めた兼原信克氏による集中連載「安倍総理の遺産」第1弾。

中国の大軍拡が止まらない。習近平国家主席の唱える強国思想は、昭和前期の帝国陸軍に似て、アジア最強の軍国になることを至上目的とする。

特に、核兵器の増強は目を見張るものがある。現在、300から400発とされる核弾頭は、早晩、米国が新スタート条約で認められていた常時配備弾頭数である1500発に追いつく。

習氏は、さらにその先を目指す。中国西部の砂漠には戦略核ミサイルのサイロがどんどん建設されている。中国は、最終的には、数千発の核弾頭を保持して米露各国の総核弾頭数に迫ろうとするであろう。

今世紀前半、米国は、中国とロシアという二大核兵器国に対峙(たいじ)することになる。しかも、ウクライナ戦争で疲弊するロシアのウラジーミル・プーチン大統領は中国にすり寄り、自由主義社会に対する「全体主義枢軸」を形成しつつある。核の世界も、「米国対中露」へと大きく構図を変えつつある。

台湾問題を直近に抱える日本にとって、「米中核対峙の時代」は、厳寒のような国際政治環境の到来を意味する。中国は、早晩、広島に投下された原爆以下の低出力の戦術核の量産に入るであろう。中国は、それを搭載する中距離ミサイルにはことかかない。

対する米国は、ロシアとの中距離核戦力全廃(INF)条約のせいで、地上配備の中距離核ミサイルを持たない。また、海洋配備の中距離核もやめてしまっている。

このミサイルギャップは、日米同盟の抑止力の柔軟性を大きく損なう。

仮に中国が、戦術核を日本や台湾に対して使用するとき、米側に反撃する相応の手段がなければ、それ以上のエスカレーションを避けるために、米国は中国と停戦協議を始めるかもしれない。

それでは、日本は「やられ損」になる。中国による対日核攻撃の後に、「日本がいないアジアの平和」が回復する。それは最悪のシナリオである。

米中両国が全面核戦争を戦うことは決してない。しかし、日本のように核戦争の最前線に立つ同盟国としては、途中で自国が「やられ損」にならないよう、同盟国である米国に対し、中国核からの最大限の安全を保障するよう求め続けることが必要である。

そのためには、まず「日本独自の反撃能力」をはじめとして、日本の「通常兵力の大増強」が必要である。

そして、米国の戦術核兵器へ、戦略核兵器へと、日米同盟のエスカレーション・ラダーをしっかりくみ上げて、中国のいかなる挑発、攻撃にも柔軟に対応できるようにしておかねばならない。それが抑止ということである。それが真の同盟管理である。

■兼原信克(かねはら・のぶかつ) 1959年、山口県生まれ。81年に東大法学部を卒業し、外務省入省。北米局日米安全保障条約課長、総合外交政策局総務課長、国際法局長などを歴任。第2次安倍晋三政権で、内閣官房副長官補(外政担当)、国家安全保障局次長を務める。19年退官。現在、同志社大学特別客員教授。15年、フランス政府よりレジオン・ドヌール勲章受勲。著書・共著に『日本人のための安全保障入門』(日本経済新聞出版)、『君たち、中国に勝てるのか』(産経新聞出版)、『国家の総力』(新潮新書)など多数。

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