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山上信吾 日本外交の劣化 日本外務省は問題点だらけ 内向き志向、交渉力・発信力の低下 本省勤務にしがみつき…永田町をチョコマカする〝内交官〟たち

zakzak by夕刊フジ 2024年7月26日 6時30分

岸田文雄首相は「外交は得意分野」と自負しているそうだが、現在の日本外交は国民の信頼を得ているのか。中国の呉江浩駐日大使が5月、台湾との関係をめぐり、中国の分裂に加担すれば「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」などと日本人を恫喝(どうかつ)する暴言を吐いた際、上川陽子外相率いる外務省は当初、担当課長から在日中国大使館の公使参事官に電話で抗議を伝えただけだった。あきれ果てる「弱腰外交」。前駐オーストラリア日本大使の山上信吾氏は「内向き志向」「交渉力低下」「発信力の低下」など、日本外務省の問題点に切り込んだ。

40年間、外務省に籍を置いてきたので、ありとあらゆる批判にまみれてきた。

「弱腰」「事なかれ」「どこの国の外務省か?」

多くの国民の不満は、このあたりに集約されよう。

だが、今の外務省は、そんな次元に止まらない大きな危機にさらされている。そもそも、「匠の集団」であるべきなのに、プロの職業外交官としての顕著な能力低下を隠せないのだ。実に深刻だ。因数分解してみよう。

第1に挙げるべきは、「内向き志向」だ。

課長、審議官、局長と出世の階段を上るにつれ、多くの者が本省に居残り続けることを期待し、在外に出ていかない。それはそうだろう。最近の次官は3代続けて、在外公館の長である大使・総領事ポスト、ナンバー2の次席ポストさえ経ることなく事務方最高ポストに就いた。それだけではない。先代の次官も先々代の次官も、大使ポストを一度でさえ務めることなく、退官していった。

こうなると外交官ではなくなる。ある慧眼のインサイダーが指摘したとおり、霞が関、永田町の2キロくらいの世界でチョコマカと動き回る「内交官」に過ぎない。こうした連中には、「何のために外務省に入ったのか?」との問いかけは馬耳東風のようだ。ひたすら本省勤務にしがみつき、そのために政治家の庇護(ひご)を求め、尻尾を振ることに忙しい毎日を送ることになる。

第2は、「ロビイング力(交渉力)の著しい低下」だ。交渉には対内と対外の双方がある。

日本と米国、インド、オーストラリアによる戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」の友邦インド主催のG20(20カ国・地域)外相会合(2023年3月)の際、参院予算委員会があるからとして林芳正外相(当時)の出席を淡泊にもあきらめてしまったのは格好の悪例だ。

中国に22年8月、沖縄県・波照間島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)に弾道ミサイル5発を撃ち込まれても、駐日中国大使に今年5月、「日本の民衆は火の中に連れ込まれる」などと言語道断な暴言を吐かれても、外務省に呼びつけることさえできず、電話での抗議で済ませてしまう臆病ぶり。世も末だ。

仮に、「ことを荒立てるな」という指示が官邸から来ていたとしても、かつ、政治家の腰が引けていたとしても、「世界標準では当然のことです」として外務次官が大使を呼びつけて、相手の目を見据えて厳重に抗議する。そうした「吏道(りどう=役人であるからには踏み行うべき道義)」さえ、廃れてしまったのか?

最後は「発信力の低下」。

歴史問題を持ち出されるたびに、慰安婦問題では河野談話、それ以外では、村山談話に逃げ込む安易で小ざかしい姿勢が、歴史問題の長期化と補償要求を招いてきたことに頭が回らない愚。致命的だ。

こんな劣化を見過ごしておくことはできないのだ。

■山上信吾(やまがみ・しんご) 外交評論家。1961年、東京都生まれ。東大法学部卒業後、84年に外務省入省。北米二課長、条約課長、在英日本大使館公使。国際法局審議官、総合外交政策局審議官、国際情報統括官、経済局長、駐オーストラリア大使などを歴任し、2023年末に退官。現在はTMI総合法律事務所特別顧問などを務めつつ、外交評論活動を展開中。著書に『南半球便り』(文藝春秋企画出版)、『中国「戦狼外交」と闘う』(文春新書)、『日本外交の劣化 再生への道』(文藝春秋)。

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