東京・神田の「神保町シアター」では、昭和の名女優、田中絹代の作品を集めた「映画に生きる―田中絹代」を開催中(12月6日まで)だ。
田中といえばオールドファンの多い稀代の女優。日本映画界の黎明期から活躍し、日本初のトーキーに主演したのも彼女なら、史上2人目の女性監督として6作品を残したのも彼女。
木下惠介の「恋文」はカンヌ国際映画祭で評判を呼び、不朽の名作「山椒大夫」ではベネチア国際映画祭の銀獅子賞、「サンダカン八番娼館 望郷」でベルリン国際映画祭の最優秀女優賞に輝いている。
今回は監督作6本を中心に、映画界に大きな足跡を残した彼女の出演作を一挙上映する。そこで全16作のうちいくつかを紹介しよう。
監督第4作として印象的な「流転の王妃」(1960年)は満州国皇帝溥儀の弟、溥傑に嫁いだ愛新覚羅浩の波乱の生涯を描く。時代の波と国策の犠牲になり、日本から大陸に渡った女性の数奇な運命。脚本、主演も務めた田中の活躍を見るべし。
「月は上りぬ」(54年)は監督第2作。脚本は小津安二郎が手がけている。「お吟さま」(62年)は田中最後の監督作。主演は有馬稲子。茶道の巨匠千利休の娘・吟が愛を貫く生き方を繊細に描く。仲代達矢、高峰三枝子らとのからみが切なく美しい。
ほかにも「簪」(41年、清水宏監督)や「流れる」(56年、成瀬巳喜男監督)、「楢山節考」(58年、木下惠介監督)などの名作がそろっている。田中絹代をスクリーンで目に焼き付けてほしい。
(望月苑巳)