日銀は18、19日の金融政策決定会合で利上げを見送り、政策金利を0・25%程度で維持した。
日銀が利上げするという根拠として、しばしば「中立金利」が指摘される。中立金利とは、景気を刺激も抑制もしない名目金利で、中央銀行が重視する金利とされている。日本の中立金利は、1~2・5%程度と試算されることが多い。
では中立金利がどのように政策金利に結びつくのか。それは「テイラー・ルール」と称される金融政策ルールがある。これは、米国の経済学者であるジョン・テイラー氏が1993年に提唱した金融政策のルールで、中央銀行の政策金利の動きを比較的説明できるものだ。
テイラー・ルールでは、中立金利、インフレ率とインフレ目標との乖離(かいり)や、GDPギャップ(潜在的な供給力と実際の需要の差)の大きさによって、政策金利の適正値を算出する。
金利引き上げを主張する人は、中立金利を1%と低く見積もっても、テイラー・ルールによって算出される政策金利は現状より高いので、「利上げ」すべしとなるわけだ。
筆者は、発案者のテイラー氏に話を聞いたことがある。テイラー・ルールはあくまで外部から見たもので、一定の中央銀行の目標関数を前提にすると導出できるが、米中央準備制度理事会(FRB)が必ずしもこのルールに従って政策を決定しているわけではないと言っていた。比較的高い説明力はあるが、ここまで単純な方式で政策金利が算出できるものではない。
テイラー・ルールにより算出された政策金利がマイナスであったにも関わらず、それより高めになっていた時期も多い。利上げの時だけテイラー・ルールを持ち出すのは、筆者からみればバランスを欠いている。
また、インフレ目標政策からみれば、中央銀行が利上げを遅らせる「ビハインド・ザ・カーブ」の原則から、インフレ率が「2%を超えたら利上げ」ではなく、「4%を超えたら利上げ」だろう。欧米の経験をみても、それまでは利上げしないというのが正しい。
日銀もその辺りを心得ているだろうから、性急な利上げに走らないと思う。むしろ、ドナルド・トランプ次期米政権を見込んで、いずれ円安ドル高の是正要求がくるであろうから、それを待って、利上げしたほうが、国内対策上、得策だと考えていても不思議ではない。
トランプ次期政権は、円安ドル高について、本コラムでいうところの「近隣窮乏化」を正しく理解し、米国経済にとってマイナスであるとしている。
各国への関税攻勢の後には、おそらく為替で日本にも円安是正要求を突きつけてくるだろう。関税攻勢は短期的にはドル高要因であるからだ。
そうした動きをマーケットは見ており、トランプ政権が為替に言及する段階で、自己実現的にマーケットは円高方向に振れる可能性もある。一方で、日銀の金融政策としても利上げは円安是正の格好の口実になる。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)