ソフトバンクの最年長打撃投手、浜涯泰司さん(54)が歴代の強打者を語る連載の最終回は、来年1月に新設される球団CBO(チーフ・ベースボール・オフィサー)に就任する城島健司氏(48)。米大リーグ・マリナーズでも活躍したスーパーキャッチャーと現役時代にバッテリーを組んだ思い出や、「還暦まで投げ続けたい」と意気込むプロフェッショナルの極意を語る。 (山戸英州)
――打撃投手転向後に初めて担当したのが井口資仁氏(前ロッテ監督)、そして現役時代にバッテリーも組んだ城島氏
「ジョーは練習ではまず右ではなく左打席に入り、(当時監督だった)王さんのモノマネから始める(笑)。一本足打法でバットを振ると、5本くらいはすぐスタンドインさせたのは驚いた。当時打撃投手として駆け出しだった俺は何も考えず、ただ『打者にストライク投げればいいんでしょ』って感じで投げていたね。アイツは本塁ベースに最も近い内角線ギリギリに立って構える。当たりそうな球も、回転してうまく打っちゃう」
――来年からはCBOとして1軍監督への助言や球団運営への参画も
「すごくいいと思う。メジャーも経験した彼は現場のことをよく知っている。12年限りで引退した後、19年から球団の会長付特別アドバイザーに就いてから、球場へ顔を出したときは雑談するけど、現場を離れてるのによく野球を見てる。年齢を重ねても根っからの野球小僧は変わらないね」
――自身も打撃投手を務めて25年
「この仕事で最初に苦労するのは球を遅くすること。現役を辞めてすぐだと、軽く投げても120―130キロが出てしまう。それを20キロ落とさなきゃいけない。しかも指にかかって投げたボールでないと。チェンジアップの100キロじゃダメ。現役生活が長い投手ほど、ボールを指で弾く力がやっぱり強いから調整しづらい。同じスピードだったとしてもキレが変わってしまう。緩い球の投げ方がなじめずおかしくなっていく人もいた」
――長くやれた秘訣は
「繊細で難しいんやけど、それをいかに簡単に考えられるか。俺は失敗してもどうにかなるやろ、と思う性格。必要以上に悩まない。寝たら忘れる。これが打撃投手の性分に合っていたのかも。1球でイップスになってしまい1、2年で辞める人もたくさんいる。現役時代に制球で勝負していた人でもね。コントロールって教えてよくなるものじゃないし、ストライクが入らなくなるのは技術よりも精神的なものが一番でかいと思う。『いい球投げてやりたい、いい球投げて打たさなきゃ』という気持ちから狂ってしまう」
――今後の目標は
「60歳まで投げ続けたいけど、本音はほかの仕事に就くことを想像したくないから1年でも長く、って感じかな。これまでスコアラーを兼任した時期もあったけど、集中力を持って試合を見るの、結構大変よ…」
――昨年6月にテレビのスポーツ番組で、藤川球児氏(現阪神監督)に取材されたのを機に初の著書を10月に出版
「なんで俺が選ばれたのか、よく分からない。こんな機会ないよ。打撃投手は誰でもできる仕事ではないってことを本を通じてファン、球団の方にも分かってほしいと願っています。ジョーからは本が出た後、『今まで打撃投手で本出す人なんていました!? さすがにおらんでしょ。浜さん、すごいっすね!』ってツッコまれた。冥土の土産になりましたわ(笑)」 (おわり)
■浜涯泰司(はまぎわ・やすじ) 1970年10月3日、鹿児島県出身。鹿児島商工(現樟南高)、九州国際大から1992年ドラフト3位でダイエー(現ソフトバンク)入り。99年限りで現役引退、翌年より打撃投手に転身。井口資仁(前ロッテ監督)、城島健司(現ソフトバンク球団CBO兼会長付特別アドバイザー)を皮切りに今季は柳田悠岐、近藤健介、中村晃らを担当。プロ通算58試合登板、1勝1敗1セーブ。防御率5.00。10月9日に初の著書「職業・打撃投手」(ワニブックスPLUS新書)を出版した。