ジェネシスをみた! まぎれもなく1972~73年のジェネシスをみた! そんな錯乱した状態になるほど、今夜のトリビュートバンド「The Musical Box」はすごかった。
あ、ジェネシスってみんな知らないかな!? もともとボーカルはピーター・ガブリエルでしたが、途中でフィル・コリンズに代わり、そのフィルがソロで死ぬほどヒット曲を出したかと思えば、ピーターも「スレッジハンマー」、ベースのマイク・ラザフォードも「マイク&ザ・メカニックス」でチャートを席巻。いわば80年代のチャートはジェネシスメンバーが割と独占していた。
そんなバンドの、僕がホントに好きな時期なライブを再現するのがこのトリビュートバンド。とにかくとんでもないものを観たというのが率直な感情だ。
始まった瞬間、く、暗い! それほどの暗い照明。出だしのキーボードがミスったのは、暗すぎて鍵盤が見えなかったからじゃないかと思うほど暗い照明で始まる。
10年以上前からロンドンのプログレマガジンでみていた「Musical Box」は93年、カナダ・モントリオールで結成された、このバンドはドニ・ガイエがボーカルになってから異次元に突入した。目の回りのメイクが当時のピーターがそうであったようにブラックライト対応なのか暗闇でも光る。「完全に演劇、これはバンドではない、劇団だ!」と言わしめるほど、当時のジェネシス、当時のピーターを再現している。
本家からも認められたトリビュートバンドながら、全世界を見回してもこれに対抗できるのはジミー櫻井くらいだろう。
とにかく僕がジェネシスで最も好きな「サパーズ・レディ」。23分に及ぶこの曲をステージング含めて完全に再現している。泣いた。再体験なんて絶対かなわないと思っていた、この曲が体験できるなんて。
しかもメンバー全員がみんなすさまじいテクニシャンなんだけど、ドニ・ガイエの卓越したパフォーマンスにより、ジェネシスがピーターのひとりロックミュージカルで他はバックバンドになっていた当時の状況まで、僕たちにまざまざと見せつけてくれる。
僕だったらイライラするだろうな。だってピーターが好きにやっている間、じっと待ってないといけないわけだから。トニー・バンクスも当時、「静かにしてればいい男なのに頭そったり被り物したりするから(苦笑)」みたいなコメントを残している。
曲前のMCにかぶせて音出しするチューニングや音の確認も当時のまんまを再現。驚いた! こんな状況だからこそ、他のメンバー全員が俺のパートに歌を入れやがってとか、ここは俺にソロをやらせろだのでしのぎを削り、究極のバンドになっていったんだな~と、ジェネシスの歴史をわからせてくれる。
どの曲も超絶技巧で改めてビックリ。なんか幻を観たような不思議な感覚で川崎クラブチッタを後にした不思議な夜でした。
■髙嶋政宏(たかしま・まさひろ) 俳優。1965年10月29日生まれ。東京都出身。87年、俳優デビュー。Netflix「トークサバイバー2」に大統領役で出演。最近ではNHKBS/P4Kの時代劇ドラマ「おいち不思議がたり」に出演。映画では「KINGDOM 大将軍の帰還」、「もしも徳川家康が総理大臣になったら」が公開中。