通常国会は24日に召集され、石破茂首相は衆参両院の本会議で、施政方針演説を行う。看板政策である「地方創生2・0」の目的を「地域の持つ潜在力を最大限引き出し、多極分散型の多様な経済社会の構築」と説明し、経済政策では賃上げを最重視して「成長戦略の要」と位置付ける方針だ。ただ、一部の世論調査で内閣支持率が30%以下の「危険水域」に突入している石破首相の命運は、「来年度予算案の衆院通過」と「ドナルド・トランプ米大統領との首脳会談」にかかっていると言っても過言ではない。産経新聞特別記者の有元隆志氏が、石破政権の「2月危機」に迫った。
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羽田孜政権以来、約30年ぶりの少数与党として、石破首相は24日召集の通常国会を乗り切ることができるか。最大のヤマ場は、6月末予定の国会会期末に立憲民主党などが内閣不信任案を提出すると可決する可能性があることだが、2月にもヤマ場がくる。「来年度予算案の衆院通過」と、「トランプ米大統領との日米首脳会談の成否」だ。
自民党内には、昨年秋の臨時国会のように来年度予算案も「国民民主党か日本維新の会の協力が得られれば可決するのではないか」(閣僚経験者)との見方が多い。
政府・与党は政権発足当初こそ、国民民主党を抱き込むことに主眼を置いていたが、自民党内では不倫騒動を起こしながらも発信を続ける玉木雄一郎代表(役職停止中)に対する不信感が高まり、むしろ日本維新の会に接近している。
石破首相も、玉木氏よりも、同じ「鉄道オタク」仲間である日本維新の会の前原誠司共同代表の方を信頼しているようだ。予算の年度内成立が確実となる3月2日までの衆院通過が実現するかがカギとなる。
むしろ、それよりも懸念が高まっているのが2月の石破首相の訪米だ。
石破首相は昨年暮れから今年にかけて、トランプ氏と会ったことのある麻生太郎元首相(最高顧問)や、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長と会談し、トランプ氏の人となりを聞いた。異口同音に「結論から先に言うことです」とアドバイスした。石破首相は「それは私が最も苦手とすることです」と応じたそうだ。
麻生氏や孫氏に話を聞くのもいいが、石破首相は、盟友関係だった安倍晋三元首相とトランプ氏の会談に官房副長官として同席した萩生田光一元政調会長や、西村康稔元経産相らにも話を聞くべきだろう。萩生田氏らは、安倍氏がいかにしてトランプ氏と渡り合ったかを首脳会談の場で直接見ている。
ある政府当局者は「安倍氏が優れていたのはゴルフ外交でトランプ氏との距離を縮めたことだけでない。危険察知能力があった」と語る。
それを示したのが2018年2月14日の電話会談だった。
安倍氏は2月4日の沖縄県名護市長選で、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対を訴える現職を、移設推進を掲げる元市議の新人が破ったことを紹介し、「辺野古で勝ってよかった」と述べた。これに対し、トランプ氏は「シンゾー、辺野古って何だ?」と質問した。安倍氏は説明するのではなく、すぐに話題を変えた。
同当局者は「トランプ氏に名護市への移設を詳しく説明しても、『そんなに地元で米軍への反対が強いなら、米軍が沖縄に駐留する必要があるのか』と言い出しかねない。安倍首相のとっさの判断であり、事務方が事前に準備できるものではない」と語る。
石破首相は安倍氏の名前を聞くと嫌がるというが、もはや安倍氏はいないのであり、いつまでも過去にこだわるべきでない。石破首相がすべきは萩生田氏らに話を聞くとともに、「安倍・トランプ会談」の全資料を読み返して学ぶことではないのか。
「政権の浮沈」はトランプ氏との首脳会談にかかっているかもしれないのだから。