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ぴいぷる 声優・井上和彦 50年かけ培った〝本物〟の凄み「100%その役の気持ちで」いくつになっても変わらない演技への思い

zakzak by夕刊フジ 2024年7月31日 6時30分

なんてダンディーなんだ。声優界のレジェンドは、今年デビュー50周年を迎えた。

「20歳からこの仕事を始めたんですけど、始めたころは50年なんて難しいかなと思ってたんですよね。気づいたら70歳になってて、意外とすぐなんだなって感じですね」

そう、今年〝古希〟を迎えたとは思えないほどの若々しさだ。円熟味を増した声は、さらに役柄の幅を広げている。しかし、いくつになっても、変わらない思いがある。

100%その役の気持ちで

「舞台でも、声優の仕事でも、お芝居って全部作りものじゃないですか。誰かが台本を書いて、誰かが役をやって。でも役を演じる時の気持ちは、いつも本物でありたいなって、いつも思ってますね。もちろん、本物でいられるかどうかわかりませんけど。ゼロよりは、10%でも20%でも、そうであったほうがいいと思うし。できれば100%、その役の気持ちでいたいですよね」

そうした思いは、どこから生まれたのか。ひもといてみる。もともとは声優を目指していたわけではなかった。プロボウラーを目指したが、職場の人間関係に疲弊して挫折。それをきっかけに引きこもりも経験するが、それでも何かをしなければという思いがあった。

頭の中で景色を作って

「そんなとき、知り合いに声優の学校の見学を誘われて…。声優という仕事自体、知らなかったけれど、面白そうだと思ったんですよ。そこではお芝居の勉強をするっていうので、なんでしょう、ピンときたんでしょうね。そういう勉強をすれば、人と接することが怖くなくなるんじゃないかって。で、試験受けたら、僕だけ受かっちゃって」

声優として活動をはじめたころ、ロボットアニメのレギュラーが決まった。しかし「UFOが来ました!」のせりふがうまくいえず、1話で降ろされてしまったのだ。

「最初はちょっと軽く見てましたね。先輩たちがあまりにも上手にさりげなくやるから、そんなに難しく見えないんですよ。でも、いざ自分がやると、まったくできなくて、この違いはなんだって。衝撃と同時に、悔しくて、どうすればできるようになるんだろうという思いが強かったです」

それから半年間、荒川の土手でひたすら「UFOが来たぞ!」と練習を繰り返したという。

「ひと言のセリフが言えなければ、2言も3言も言えない。このひと言ができなければダメだという思いでした。練習するなかで、演技というものをいろいろと考えることができましたね。でも近所の人は不審だったでしょうね。河川敷でいつも〝UFOが来たぞ!〟と大声で言っている男がいるんですから(笑)」

演技の中で〝本物〟であり続ける方法。そのひとつが、生身を使った演技に、イメージをプラスするということだ。

「声の仕事の現場はマイクしかないので、たとえばシーンが応接室で座っているとしたら、椅子をイメージして、座ったときの背中に当たる革の感じまでも全部イメージしていないといけない。自分の周囲360度、頭の中で景色を作っているんですよ」

そのために見る景色、聴く音、嗅ぐ匂い、そんなものすべてを頭の中に刻み込んでいる。

その後「サイボーグ009」の島村ジョーなどを演じたことで、アイドル声優のはしりとしても活躍してきた。

関智一との「二人芝居」

そんな中、デビュー50周年を記念して、8月23~25日に東京・銀座の博品館劇場で、声優仲間の関智一との二人芝居「エニグマ変奏曲」を上演することになった。

「関くんとご飯を食べていて、デビュー50周年に何しようか、相談したんですよ。一人芝居とかどうかなみたいに…。すると、関くんが、ふたり芝居やりましょう。一緒にやりましょうって。そこからはトントン拍子に話が進んで。博品館って、僕がファーストライブをやった場所なんですよ。僕にとっては、本当に幸せな空間でお芝居ができるので、皆さんと一緒に、お芝居という空間を味わいたいなと思っております」

この50年で培ってきた〝本物〟とは何か。ぜひ、舞台で見届けてほしい。

(ペン 福田哲士/カメラ 酒巻俊介/レイアウト 河本 亮)

あすは俳優の佐々木蔵之介さんです

■井上和彦(いのうえ・かずひこ) 声優、ナレーター。1954年3月26日生まれ、70歳。横浜市出身。73年の「マジンガーZ」の兵士役でデビュー以来、「超合体魔術ロボ ギンガイザー」の白金ゴロー、「キャンディ♡キャンディ」のアンソニー、「サイボーグ009」の島村ジョー、「美味しんぼ」の山岡士郎など数多くのアニメ作品に出演。洋画ではマッツ・ミケルセンや「NCIS」のマーク・ハーモンの吹き替えを担当している。また、舞台・映像作品にも出演しており、その活動は多岐にわたる。初の自伝「風まかせ 声優・井上和彦の仕事と生き方」(宝島社)が発売中。

「井上和彦50周年記念公演 Kazz’S『エニグマ変奏曲』」は8月23~25日、東京・銀座の博品館劇場で開催(5公演)。トークゲストには三ツ矢雄二と日高のり子(24日午後2時公演)や置鮎龍太郎(24日午後7時公演)らを予定している。問い合わせは東京音協(https://t-onkyo.co.jp/)まで。

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