【パリ(フランス)7月31日(日本時間1日)=山戸英州】体操・男子個人総合決勝で初出場の岡慎之助(20)=徳洲会=が6種目合計86・832点で団体に続いて金メダルを獲得した。日本勢による同種目の制覇は2012年ロンドン五輪から4大会連続の快挙。22年の全日本個人総合選手権で負った右膝の前十字靱帯完全断裂から復活しての見事なVだった。リハビリ中に日本勢が点数を落としがちな、つり輪を徹底強化。華麗な演技と、スーパーカーの「フェラーリ」にたとえられる強靱な肉体でアクセル全開、頂点に上り詰めた。
「目標にしていた団体、個人での金メダル。今日はただ勝ちたかった。ミスなく終えられてうれしいです」
団体で制覇した勢いそのままに新チャンピオンが躍動した。予選を2位で通過した岡。2種目目に挑んだあん馬は国内選考会では失敗していたが短期間で修正、レベルをアップさせて14・500点を奪い、トップに躍り出た。
5種目目の平行棒では両足を天井に延ばす倒立を余裕を持ってきっちりと決め、その華麗さに会場からため息が漏れるほど。15・100点を記録してさらに波に乗る。
勝負の分かれ目となった最後の鉄棒は得意種目で「中途半端な演技ではなく、思い切ってやる。すごく緊張していたが、冷静になり縮まずにやろう」と念じ、気合の14・500点。強敵の張博恒(中国)を僅差ながら上回り、栄冠をもぎ取った。
体操人生のターニングポイントになった22年の右膝のけが後は、不安と闘いながらも厳しいトレーニングを課し、「パリ五輪があったからこそ乗り越えられた」。初めて立った大舞台は「緊張をかみしめながら、楽しんでやれた」と笑った。全体的に決して「いい演技ができたとは思っていない」と自己採点したが、高得点をつけた審判団には「評価してくれた」と深く頭を下げた。
体操との出合いは4歳のときで、保育園の先生に逆上がりをほめられたことがきっかけだった。体操界では、多くの選手が高校、大学とステップを踏んでシニアのチームに入るが、岡は高校進学時にシニアチームの徳洲会に入部し、岡山県の私立関西高に進学したものの、一度も登校せずに退学した。その後、通信制の星槎国際高に進み、現在、星槎大に在学中。
徳洲会の米田功監督は、岡の体操について「フェラーリ」と表現する。「スペックはすごい。でもまだまだ乗りこなせていない」。それで表彰台の頂点に立つのだから、底知れないポテンシャルの高さを物語る。
名前の由来は、父・泰正さんがプロ野球巨人のファンで、現監督の阿部慎之助監督のように「スーパースターになってほしい」との願いで名付けられたという。
個人総合2連覇がかかったエース・橋本大輝(22)=セントラルスポーツ=からは「自信を持ち、胸を張って演技しろ!」と声をかけられ、金メダルが決まった瞬間、「やったな! おめでとう」と祝福を受けた。先輩ながら、ライバルを制したことに「課題をひとつクリアできた」と胸を張る。
4年後のロサンゼルス五輪では橋本が成し遂げられなかった大会2連覇に早くも期待が高まる。
「全員が出られる場所ではないけど、僕はオールラウンダーとして今後も常に挑戦していく心を忘れずに勝ち続けたい」
岡のアクセルは踏み込みっぱなしだ。
①岡慎之助=86.832
②張博恒(中国)=86.599
③肖若騰(中国)=86.364
④イリア・コフトゥン(ウクライナ)=86.165
⑤ジョー・フレーザー(イギリス)=85.532
⑥橋本大輝=84.598
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◆メダル獲得数ランキング(上位)◆
順位 国・地域 金 銀 銅 合計
1 中国 9 7 3 19
2 フランス 8 10 8 26
3 日本 8 3 4 15
4 オーストラリア 7 6 3 16
5 英国 6 6 5 17
6 韓国 6 3 3 12
7 米国 5 13 12 30
8 イタリア 3 6 4 13
※現地時間7月31日終了時点