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森永康平の経済闘論 日銀の追加利上げで経済に暗雲 「預金の金利上昇」をメリット主張は無理がある なぜこのタイミングで…合理性は見当たらない

zakzak by夕刊フジ 2024年8月8日 6時30分

日本銀行が7月30、31日に開催した金融政策決定会合において、主に2つの政策変更を発表した。

1つ目は現在毎月6兆円程度を買い入れている国債について、今後は原則として毎四半期ごとに約4000億円ずつ買い入れ額を減額することとした。

前回の会合において、国債買い入れの減額については事前に予告されていたため、この内容自体に意外性はなかったが、2つ目の政策変更である追加利上げはサプライズとなった。従来0~0・1%程度であった短期金利(無担保コールオーバーナイト物)を0・25%程度に引き上げることとしたのである。

株式市場や為替市場は複数の要因で動くものではあるが、政策発表以降、日経平均株価は急落し、ドル円相場も一気に円高方向に動き始めた。

そもそも、今回の追加利上げは妥当なのだろうか。同日に日銀が公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」をみてみると、政策委員の「生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価指数の伸び率」の見通しの中央値は今年度も来年度もともに1・9%となっており、安定的な物価目標を達成できるような状態にはみえない。しかも今年度の実質国内総生産(GDP)成長率の見通しは4月時点の0・8%増から0・6%増に下方修正されている。

実質賃金のマイナスが過去最長の26カ月連続を記録し、実質消費支出の季節調整値は15カ月連続でマイナスとなっており、家計は非常に厳しい状況にあることは経済指標をみれば一目瞭然だ。また、有効求人倍率も全国平均が1・23倍となっており、3カ月連続で低下しており、労働市場でも陰りがみえている。

今回の利上げ幅はわずかだから経済に影響はないとする指摘も見られたが、であれば、なぜこのタイミングで追加利上げをしたのだろうか。少なくとも経済指標から利上げのタイミングを急ぐ合理性は見当たらない。利上げには住宅ローンの返済負担が上がるというデメリットだけではなく、銀行預金の金利が上がるというメリットもあるという指摘もあるが、たとえば総務省が公表している家計調査報告によれば、50歳未満の2人以上世帯では貯蓄よりも負債の方が多く、このデータをみれば前述のメリットを主張するのは無理があることはすぐに理解できるだろう。

金融政策の影響が出るには時間がかかるため、目先の株価や為替の変動をもって評価するのはおかしいが、少なくとも早々に暗雲が立ち込めている印象だ。

■森永康平(もりなが こうへい) 経済アナリスト。1985年生まれ、運用会社や証券会社で日本の中小型株のアナリストや新興国市場のストラテジストを担当。金融教育ベンチャーのマネネを創業し、CEOを務める。アマチュアで格闘技の試合にも出場している。著書に父、森永卓郎氏との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など。

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