王将リーグは、棋界一過酷なリーグである。定員はわずか7人で、降級は3人。
順位戦のA級リーグの定員10人、降級2人と比べても、その過酷さが分かる。
今回のメンバーは順位順に、昨年挑戦者の菅井竜也八段、羽生善治九段、永瀬拓矢九段、近藤誠也七段、広瀬章人九段、佐々木勇気八段、西田拓也五段の7人。
菅井から佐々木までのタイトル経験者、A級棋士の中に、近藤と西田が入っている構図だ。
近藤は今までタイトル挑戦などの活躍はないが、藤井聡太七冠の順位戦毎年昇級を、唯一C級1組で止めた棋士であり、今期はB級1組で7勝1敗と、トップグループを走っている。
そして何より、2021年度に王将リーグ入りして以来、一度も降級していない実力の持ち主なのだ。
また西田は奨励会生活12年、年齢制限ギリギリで棋士となった苦労人。今期は王将戦で爆発した。
王将リーグは毎年誰が挑戦者になっても、また誰が落ちても不思議はないと言われるが、今期は羽生、広瀬、佐々木のタイトル経験者と新A級が降級となった。
代わりに飛び出したのが西田で、5勝1敗の永瀬に唯一黒星をつけた。
結局西田も近藤に敗れただけで、最終局を広瀬に勝ってプレーオフに。
プレーオフは25日に、永瀬との間で行われた。
先手の西田が三間飛車に振ると、永瀬は穴熊に囲い、ジックリと待つ展開に。
先に動いたのは西田で、角交換から大きく飛車を捌(さば)いたが、後手の永瀬に手厚く馬を作られて、形勢を損じた。
その後は先手の端攻めを逆用して、反対に相手玉を端から攻めて永瀬は勝勢を築いた。
最後は西田が続けて指しても勝ちが出ないほどの大差となり、投了を告げた。
局後の感想で面白いのは、主催者インタビューで、どこで良くなったかを永瀬に聞くと、どうやっても勝勢の局面での決め手を言い、西田がどこで悪くしたかは、中盤でやり損ね、早くから悪くなったことを言ったこと。
西田の方が正しいのだが、勝者は常に気を使うものと、感心した次第。
永瀬の王将挑戦は4年ぶりだが、その時の相手は渡辺明王将(当時)。藤井と七番勝負、すなわち2日制の対局を戦うのは初めてなので、今までとは違った戦い方を見せてくれるものと期待している。
■青野照市(あおの・てるいち) 1953年1月31日、静岡県焼津市生まれ。68年に4級で故廣津久雄九段門下に入る。74年に四段に昇段し、プロ棋士となる。94年に九段。A級通算11期。これまでに勝率第一位賞や連勝賞、升田幸三賞を獲得。将棋の国際普及にも努め、2011年に外務大臣表彰を受けた。13年から17年2月まで、日本将棋連盟専務理事を務めた。