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エンタなう 作曲家ラヴェル自身も気づかぬ〝内なる官能〟に迫る 生涯独身だった彼のダークサイドに光をあてる映画「ボレロ 永遠の旋律」

zakzak by夕刊フジ 2024年8月13日 11時0分

一度聴いたら忘れられないボレロのメロディーをだれもが耳にしたことはあるだろう。

スネアドラム(小太鼓)が同じリズムを169回正確に刻み、人生の邪と聖を投影したようなたった2つの旋律が9回反復、楽器の数と音の大きさを徐々に増やしながら最後に爆発する。この17分間の特異なバレエ曲の誕生秘話と作曲家ラヴェルの〝心の闇〟を解き明かしたのが映画「ボレロ 永遠の旋律」(公開中)である。

冒頭、けたたましく機械音が響く工場のシーンに驚く。ラヴェル自身が「ボレロのインスピレーション」を得たと言葉を残している。だが、逡巡したあげく完成した世紀の最高傑作には、自分でも気づかぬ〝内なる官能〟がちりばめられていた。バレエ用の曲を委嘱した当代の人気ダンサー、イダ・ルビンシュタインをはじめ、慕い続けた女性ミシアや、良き理解者のピアノ奏者、親しき家政婦や亡き母の面影といった女性たちが、生涯独身だった彼のダークサイドに光をあてる。また、志願した従軍先で医療班に配属され重傷を負った兵士に心を痛める場面も。

ラファエル・ペルソナ演じるラヴェルは、交友があったストラヴィンスキーが「スイスの時計職人」と称したように謹厳実直。本作を見たあと、改めて「ボレロ」を聞けば、その響きがまた違って聞こえてくる。この名曲への高い評価が、やがて彼の肉体を蝕むが、内に秘めたラヴェルの音楽はいつも美しい。(中本裕己)

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