「そうだ!トレトレの魚を食べに京都へ行こう」。そんな観光客は珍しいかもしれません。むしろ京都の魚といえば、「鯖街道」で遠路はるばる運ばれた塩サバや、京都発祥「にしんそば」のしっかり煮込んだニシンなど「トレトレとは言えない魚」を連想してしまいます。
しかし京都には、全国でも有数の立派な漁場があるのです。日本三景「天橋立」を抱く宮津市の「宮津湾」。しかもリアス式海岸の地形に対馬暖流と日本海固有水が流れ込んでいるため、豊富なプランクトンとおいしい魚が育ちやすく「奇跡の海」と言われています。
それではなぜ、戦国から江戸時代にかけて、わざわざ福井県小浜市から京都市内へ魚を運ぶ「鯖街道」が作られたのか、ちょっと謎ですが、とにかく国際観光立国を目指す令和の時代に「奇跡の海」を活用しない手はありません。しかも天橋立は全国有数の観光名所。インバウンドも多数訪れており、来年には京都近郊で「大阪・関西万博」と「瀬戸内国際芸術祭」がダブル開催されます。
そこで京都府宮津市は天橋立の旅に「奇跡の海」の恵みや地元野菜を食べる魅力をプラスしようと、「宮津・天橋立マリアージュ」プロジェクトを立ち上げました。これは、地元で獲れた魚や野菜を使って、日本有数のシェフにメニューを開発してもらい、宮津市内の飲食店で観光客に振る舞おうという試みで、今年度、観光庁の「地域一体型ガストロノミーツーリズム推進事業」にも採択されています。
ちなみに「ガストロノミーツーリズム」とは、その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などに育まれた食を楽しむ旅行のこと。インバウンドの多くは「日本のおいしい食」を目的にやってくることを考えると、今回のプロジェクトが、宮津市に外国人観光客を呼び込む大きな魅力になることは間違いありません。
かくして先日、日本有数のシェフたちが、新たなメニュー開発のために宮津市へやってきました。その一人、日本料理人の渡辺大生さんは「宮津に来て、食材の質の高さと多さに驚きました」と言いながら、宮津港で獲れたアマダイをメインに、3種の前菜を試作し関係者に振る舞いました。
もちろん味は絶品。このメニューが宮津市内の飲食店で振る舞われるのは少し先になりますが、実現すれば京都観光に「トレトレの魚グルメ」が加わるかもしれません。京都の魅力がさらに増しそうです。 (地域ブランド戦略家・殿村美樹) =隔週木曜日掲載