王位戦第5局は8月27、28日、神戸市有馬温泉「中の坊瑞苑」で行われ、藤井聡太王位が挑戦者の渡辺明九段に勝ってタイトルを防衛。同時に最年少の22歳1カ月で、王位5連覇により、永世称号を獲得した。
この将棋は後手の渡辺が雁木で持久戦を目指すのに対し、藤井は囲いが中途半端なまま仕掛けて、急戦模様に。渡辺の反撃を藤井は玉が先頭に立って受け、反撃を封じると駒得をしながら反転攻勢に出た。
後手は居玉のままの受けになったが、次第に受けがなくなり、最後は必至をかけられて投了となった。
終わってみれば、藤井は一度も形勢が悪くなることなく、形勢の針がきれいな藤井カーブを描く完勝となった。
シリーズを振り返ると、やはり第1局で渡辺が最後、詰みを逃したのがすべてだった気がしてならない。
以前も触れたが、その将棋は相手の王手に逃げ間違えなければ、いわゆる初段コースの問題という、易しい詰みだった。
終盤では上に逃げるという、プロの習慣が間違えさせたのだが、AIの評価はその手を指しても変わらなかった。AIでは詰みがあれば難易度関係なく、勝つ確率は100%なのだ。
しかし人間は違う。難しい五段コースの詰みでも、最初からそのつもりで考えれば、渡辺が逃すはずはない。しかし間違えなければ易しい詰みだったことに気が付くと、それを後悔しながらの思考になって、特に秒読みの中では間違えることがある。
第1局はまさにそのパターンで、渡辺は勝ちを逃した。
第2局は藤井がこれほど完璧に負けたのは見たことがない、という程の渡辺の快勝だった。しかし第3局で、難しい終盤ながら、渡辺が勝ち筋を逃して敗れると、後はいつもの苦手な対藤井戦になってしまい、結局1―4で渡辺は敗れた。
永世王位は、大山康晴十五世名人、中原誠十六世名人、羽生善治九段に次いで4人目だが、22歳は最年少だ。
羽生がタイトルの永世称号の全冠(当時は7つ)を得たのは、47歳の時だったが、タイトル戦をほとんど負けない藤井が何歳で全冠になるのか。
とんでもない記録が出るのではないか、という期待がある。
■青野照市(あおの・てるいち) 1953年1月31日、静岡県焼津市生まれ。68年に4級で故廣津久雄九段門下に入る。74年に四段に昇段し、プロ棋士となる。94年に九段。A級通算11期。これまでに勝率第一位賞や連勝賞、升田幸三賞を獲得。将棋の国際普及にも努め、2011年に外務大臣表彰を受けた。13年から17年2月まで、日本将棋連盟専務理事を務めた。