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ドクター和のニッポン臨終図巻 文芸評論家・福田和也さん 肉体は消えても書き残した本は消えない 死んでからも永遠にプロの書き手

zakzak by夕刊フジ 2024年9月30日 6時30分

先頃、「雑誌・週刊誌を月に1冊も買っていない世帯が5分の4近くにも上る」という衝撃的なニュースを知りました。この15年にわたり毎年本を上梓(じょうし)してきたからわかるのですが、コロナ禍以降の出版業界は、本当に大変なことになっています。街の本屋さんも次々に消えていき寂しいかぎり。

かといって電子書籍の売り上げが伸びているかといえば、そうでもありません。無料で読めるものが多すぎて「お金を払って読む」という価値観が希薄になっているところは僕自身にもあります。

しかし書籍文化の衰退というのはすなわち国力の衰退ではないか? 国民の知性こそが国の財産とすれば、わが国はものすごいスピードで沈没しかかっている……そんな荒(すさ)んだ気持ちでいるなか、私の読書の大きな指針となっていたこの人の訃報に接しました。

保守の論客としても知られた文芸評論家で慶応大学名誉教授の福田和也さんが9月20日、千葉県内の病院で亡くなりました。享年63。死因は急性呼吸不全との発表です。福田さんはここ最近、体調を崩していたとのこと。

訃報欄を眺めていて、皆さんもときどき不思議に思うことがあると思います。死因が「心不全」や「呼吸不全」になっているが、「それまで聞いていた病名と違うぞ?」というときです。

急性心不全や呼吸不全は、亡くなられたときの状態(死亡診断書に書く死因)であって、本当の死因(闘病をしていた病名)とはまた違ったものです。前者で発表するか後者で発表するのかは、ご家族や関係者が決めているはずです。もちろん、生前に本人が「死因は明かすな」と意思表明するのもアリです。最近は、死因を発表しない訃報も増えてきました。死に方もある程度選べる時代ですから、それでいいのだと思います。

この連載を続けている僕自身、死んだときは、その死因は世間に発表してほしくないと思っています。本音を言えば、死んだこと自体、誰にも知られたくはない。

「ああそういえば最近、長尾を見かけないなあ。ブログも更新してないし、ライブもやらなくなったよね…」。そう思われて、徐々に周囲の記憶から消えていけたなら理想です。しかし、肉体はこの世から消えても、書き残した本は消えません。

福田さんは『ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法』(PHPビジネス新書)というご著書の中で、こんなことを書いていました。

「プロというのは、どんな時にも物書きだということですね。仕事をしているとか何とかではなくて、生きている時間全体が、書くということに関わっているのが、プロの書き手だと思います」

死んでからも永遠にプロの書き手、素晴らしい論客でした。

■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。公益財団法人日本尊厳死協会副理事長としてリビング・ウイルの啓発を行う。映画『痛くない死に方』『けったいな町医者』をはじめ出版や配信などさまざまなメディアで長年の町医者経験を活かした医療情報を発信する傍ら、ときどき音楽ライブも。

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