公立学校教員の給与として残業代の代わりに支給する「教職調整額」について、財務省は授業以外の業務削減を条件として現在の「月給4%相当」から、2030年度まで段階的に「10%」に増やす案を公表した。一方、文科省は早ければ26年に一気に「13%」に増やすよう求めている。対立の背景はどこにあるのか。そして、どう決着するだろうか。
市町村立小中学校の教員は、市町村の公務員だ。地方公務員の給与は、生計費、国家公務員給与、民間企業の給与などを参考にして決められている。ただし、その給与は全額都道府県負担で、都道府県負担の3分の1は国負担だ。
こうした制度のなか、公立学校の教員給与は、人材確保法により一般の公務員より優遇することが定められている。ある程度、国が関与して公立学校教員の給与を上げることができる。
国税庁調査による民間年収は23年で平均460万円程度だが、総務省地方公務員給与実態調査による公立小中学校教員は平均680万円程度と民間平均より高い。
公立学校教員給与の争点は、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)だ。月給4%分の教職調整額は支給されているものの残業の多さに見合っていないとの批判がある。
筆者は私立大学の教員だが、やはり残業代はない。どこまでが平常勤務なのか残業なのかを区別できないので、裁量労働制といい、いってみれば残業代込みの給与だ。
筆者からみると、給特法は、裁量労働制に近いように思える。となると、給特法を「サービス残業法」「働かせ放題法」と批判するより、「4%」という教職調整額の水準が妥当かどうかを議論したほうが、より公立学校教員のためになるだろう。
4%の根拠は、1966年度に文部省(現文科省)が行った教員の勤務状況調査で、当時の時間外勤務が月8時間だったことなどを踏まえたものだ。
自民党の特命委員会が2023年5月にまとめた提言には、4%から「10%以上」に引き上げるという案がある。
文科省が公表した22年度教員勤務実態調査によると、時間外勤務は小学校で月約41時間、中学校で月約58時間となっており、自民党はこれを20時間に縮減した上で、教職調整額10%の根拠としている。
今回の財務省の10%案は、基本的に23年の自民党特命委員会の提言に沿ったものだ。これに対し、文科省はより要求の高いタマを投げている。
自民党特命委はその背後に旧安倍派の文教族の強い影響があった。しかし、先の衆院選で多くが落選し、今やその影響力はない。文科省は、衆院選で伸ばした野党の力を借りて「13%」を要求しているのだろう。
10%での財政負担は700億円程度なので、これを13%としたところで大した違いはないといえる。時間外勤務の圧縮を26時間程度にすれば、このくらいはやるべきだろうし、現実的な対応だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)