自公与党が衆院選で大敗した理由は「裏金問題」だけではない。左翼リベラル化した自民党に対して、保守層が「ノー」を突き付けたのだ。この受け皿が、国民民主党や参政党、日本保守党となった。菅義偉政権と岸田文雄政権の下で推進された「脱炭素」政策も、特に左翼的な政策の1つだった。
政府はグリーントランスフォーメーション(GX)推進法を制定し、今後10年間で150兆円の官民投資を「脱炭素」のために実施するという。投資というと聞こえはよいが、その原資は国民が負担する。国民1人あたり120万円、3人世帯なら360万円である。賃上げなど吹き飛んでしまう。
毎年15兆円といえばGDP(国内総生産)の3%にあたる。防衛費を2%に上げるために大騒ぎしていたのに、その舞台裏ではこのような「ステルス増税」がまかり通っていた。
政府は150兆円の投資でグリーン成長するというが、するはずがない。投資対象が悪いからだ。洋上風力発電、太陽光発電、その導入のための蓄電池や送電線建設、あるいはアンモニア発電や水素合成燃料など、どれもこれも、やればやるほど光熱費が高くなるものばかりだ。
そもそも、日本政府はかつて、「太陽光発電の大量導入でグリーン成長する」と言っていた。だが、起きたことは「電気代の高騰」と「産業空洞化」だった。いまこの失敗に懲りずに、同じことを何倍にもして実施しようとしている。潤うのは一部の再エネ利権などに過ぎない。そして、その犠牲になるのは一般国民である。国民は愚弄されている。
政府は150兆円のうち20兆円は国債の発行で賄うとしており、いま政府はその20兆円の償還のための財源としてエネルギーへの課徴金や政府が発行する排出権の売却収入を検討している。
電気なのかガスなのか、灯油なのかプロパンガスなのか、どの料金が上がるのだろうか。いずれにせよ国民に20兆円を支払わせるということを前提にして、いまババ抜きのような検討がなされている。
20兆円の収入は、新設の外郭団体である「GX機構」が特別会計で回す。すでに天下りも始まっている。こんなオールドファッションな「役人天国」のために光熱費は高騰し、国民経済はボロボロになる。
GX法ごと、根こそぎ廃止すべきだ。
■杉山大志(すぎやま・たいし) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1969年、北海道生まれ。東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員などのメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書・共著に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『亡国のエコ』(ワニブックス)、『SDGsエコバブルの終焉』(宝島社新書)など。