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ニュース裏表 田中秀臣 身勝手な意見の〝押し売り〟日本型リベラル 神宮外苑再開発めぐる共産主義的主張、資本主義を忘れた議論は混乱を招く

zakzak by夕刊フジ 2024年7月9日 11時0分

実業家のイーロン・マスク氏がX(旧ツイッター)の経営を掌握してよかったことは、ハフポストやアエラなど特定の政治的主張を持ったメディアの記事がひんぱんに表示されなくなったことだ。必要ならどんなメディアの意見も参考にするが、読みたくない時や、ましてやブロックしても表示されたのは困ったことを覚えている。SNSはいまやわれわれにとって「共通の財産」だ。特定の意見の〝押し売り〟はダメだろう。

そのハフポストを久しぶりに読む機会が最近あった。経済思想家の斎藤幸平氏(東京大学准教授)が、明治神宮外苑の再開発を批判する談話を掲載したからだ。この神宮外苑再開発は、東京都知事選を契機に論点にしようと、日本型リベラルや左派系のメディア・政党・知識人たちが躍起になっていた。

斎藤氏は神宮外苑について「市場に任せてはいけない、社会で共有すべき富」である「コモン」だという。神宮外苑の環境を破壊する事業体は「コモンの商品化」をするので批判されるべきだ、というのが彼の主張である。

似たことを共産党や一部の活動家も言っていた。都知事候補だった蓮舫氏もだ。当たり前だが、明治神宮外苑は地権者たちのものであり、「社会で共用すべき富」だと、その私権を無視していいわけもない。だが、斎藤氏の主張では、歴史的に神宮外苑はボランティアの世話をずっと受けて維持されてきた「コモン」である。また「コモンの商品化」で一部の富裕層しか楽しめない施設ができ、並木も枯れてしまうかもしれないなど、ともかく再開発はダメだ、としている。斎藤氏は神宮外苑の営利的な開発は一切認めたくないようだ。

しかし大正時代からのボランティアが美観の維持に貢献していても、それが再開発を認めないとする根拠にはならない。ボランティアには所有権がないからだ。また明治神宮をはじめ地権者たちが膨大なコストをかけて外苑の自然環境を維持してきたことが無視されている。左翼系のイメージ戦略で、環境破壊のように宣伝されているが、むしろ樹木の保全など環境維持のためのコストを捻出している開発事業者たちの努力も無視されている。資本家vs市民のような対立図式を生み出したいのだろう。

斎藤氏は、営利行為そのものを批判的にみているようだが、日本は資本主義社会であり、共産主義社会ではない。この基本を忘れた議論は混乱を招くだけだ。いままでの地権者たちの膨大な金銭的努力もこれからの民間の創意工夫も、「コモン」を理由に否定する斎藤氏の論調は、あまりに身勝手な意見の〝押し売り〟ではないだろうか。 (上武大学教授・田中秀臣)

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