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ぴいぷる 映画監督・湯浅典子 テレビ育ちなので…作品に合う人を探すところからやりたかった 「なんで人は死ぬのか」北野武監督に心酔

zakzak by夕刊フジ 2024年11月20日 6時30分

親友の死きっかけに

葬式を描いた映画にはハズレが少ないと言われる。映画「カオルの葬式」も、全裸でパソコンに向かう女性のポスターが印象的で、なかなかに意味深長だ。

親友の急死をきっかけにこの作品を着想して7年がかりで公開に漕ぎつけた。

「なんで人は死ぬのか。わからなかったので、作り手として答えを出してみるのが、私がやるべきことだと思いました」

女性脚本家のカオルが亡くなり、10年前に離婚した元夫・横谷が、遺言により葬式の喪主を任され戸惑うところから映画は始まる。東京からカオルの故郷・岡山に到着すると、そこにはカオルが遺した9歳の一人娘が。そして、カオルを取り巻くテレビ関係者や故郷の人々が集う嵐の通夜に〝事件〟が起きる。

「遺された人たちの群像劇で、登場する人たちの誰かが私たちに重なるという思いで作りました。人って、ずっといいやつでも、ずっと悪いやつでもない。どっちでもない人がほとんど。それぞれに、どう見えているのか。そういうお通夜になればいいなと」

ユーモアも織り込まれた〝令和の不謹慎エンターテインメント〟は、国内外の映画祭で注目を浴びつつある。ロケ地は岡山県の山間部にある苫田郡鏡野町で行なわれ、スペインのバルセロナで制作した。

「最初から国際共同制作にしたかったんです。日本で作られたものが日本でしか見られないというのが、どう冷静に考えてもおかしな話だわと。工業製品だって作られたらいろんな国で売られていくでしょう」

キャスティングにもこだわった。いわゆるテレビでよく見るタレントは少ない。個性あふれるプロの役者が集結した。

「私、テレビ育ちなので、(ドラマが)始まる前から出演者が決まっているという世界で生きてきました。その理屈もわかっているつもりですが、もっとシンプルに、この作品に合う人たちをきちんと探すところからやりたかった」

ヤフーに出演者募集の記事が配信されると、コロナ禍で演じる場を奪われていた約1000人から応募があった。生き生きとした配役には、「レバノンのトリポリ映画祭でも、『本当に俳優がすばらしい』と褒めていただきました」という。

北野武監督を心酔

大学では建築学を学んだ。「周りはみなさん優秀で、しまったと。建築で就職する自分が見えなくなったとき、北野武さんが監督した『HANA―BI』を見て、衝撃を受けました。エンドロールを見ていると、武さんに肩書きがたくさんついていて、全部やられている。この職業なら飽き性の私でもやっていけるかもしれないと」

心酔する北野監督も明治大学工学部出身の理系監督だ。

「今でも私、数字とか大好きですし、理論的、合理的なことが好きなんですが、唯一、そうじゃないところに映画の面白さを感じました。北野監督の映画で、象徴的に絵が入る感じとか、岸本加世子さんがほとんど台詞を発しないとか。もちろん理屈はあるのだとおもいますが感動的でした」

冒頭の「なんで人は死ぬのか」の答えも単純に数値には置き換えられない。それは身近な人の「死」を通じて、ショックを受け、自身が感じ取るしかない。

「一歩進んでみようと思ったとして、進めないことだってあるし、ただ進んでみようと思っただけということもある。何かすごく曖昧な言い方になりますが、へこたれている人にがんばれ、がんばれとか言いますよね。こけちゃった人に、立ち上がりなさいとも言うけど、別に『そのままでいい』って言ってあげられるやさしさを私は持ちたいなと思っています。社会もそうあってほしいし、生きていくってそういうことだなって。こけて、泣いて、そのままでも良くない?って」

死という最も深刻なテーマに向き合うからこそ、明日が見えてくる。

■湯浅典子(ゆあさ・のりこ) 映画監督。プロデューサー。1976年12月3日生まれ、47歳。岡山県出身。東京都立大学工学部建築学科卒業後、木下プロダクション(現TBSスパークル)に入社。2013年フリーとなり、テレビドラマの演出・プロデュースの一方、15年劇場公開された「宇田川町で待っててよ。」で長編映画監督デビュー。短編映画も精力的に監督し、「空っぽの渦」は国内外の映画祭で17冠受賞。AmazonPrime連続ドラマ「日本をゆっくり走ってみたよ~あの娘のために日本一周」では、自身の企画でプロデュースとメイン監督を務めた。

「カオルの葬式」22日から全国公開

昨年12月、岡山で先行特別上映を行なった「カオルの葬式」は、大阪アジアン映画祭、ニューヨークのJAPAN CUTS映画祭など国内外で反響が続き、今月22日東京・新宿武蔵野館、12月6日大阪・扇町キネマなど全国で順次公開される。

(ペン・中本裕己/カメラ・酒井真大)

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