ウクライナ侵略戦争を続けるロシアに対する西側の金融制裁がここへきてやっと威力を発揮してきた。
グラフはロシアの短期市場金利と通貨ルーブルの対ドル相場の推移である。2022年2月24日、ロシア軍がウクライナへの侵攻を始めると、ルーブル相場は急落、短期金利は高騰し、ロシアの金融市場は激しく動揺した。米欧日がロシアの多くの金融機関を、ドル本位の国際資金決済ネットワークである国際銀行間通信協会(SWIFT)から締め出すなど金融制裁に踏み切ったからだ。ところが、制裁発表からわずか数カ月間で混乱は収まった。西側のSWIFT制裁は、ロシアの大手金融機関、ガスプロム銀行などを除外するなど大きな抜け穴があったし、制裁対象のロシアの銀行も中国の人民元国際決済ネット、CIPSを利用ことによって制裁による打撃を緩和できた。
中国の習近平共産党総書記・国家主席は22年2月初旬の北京五輪開幕式に出席したプーチン・ロシア大統領に「限りなき友情と協力」を約束しており、金融協力のほか、国際相場よりも安くなったロシア原油を国際相場に沿って大量に買い上げ、ロシア財政を支援している。日用品から軍民両用技術の製品に至るまで対露輸出を増やしてきた。これによって、軍需経済のロシアは安定し、西側からの制裁に耐えてきた。
しかし、米国のバイデン政権は24年に入って対露協力する中国の銀行や企業に対し、2次制裁を発動する姿勢を強めた結果、中国の大手商業銀行はロシアの銀行との取引を相次いで中止するようになった。さらに11月21日には米財務省はガスプロム銀行など50行以上の銀行と40社以上の証券会社を新たに制裁対象に加えた。特にガスプロム銀行はエネルギー輸出代金に限らず、ロシア企業の対外決済の多くに関与してきたが、その外貨入手ルートが封じられた。この結果、ルーブル相場の下落が加速し、消費者物価は高騰する。悪性インフレ阻止と通貨防衛のためにロシア中央銀行は政策金利を大幅に引き上げざるを得なくなった、というのが最近の情勢である。政策金利はすでに21%に達しており、市民生活を大きく圧迫する。
米国ではロシア、ウクライナの和平仲介に前向きなトランプ前大統領が1月20日に第2次政権を発足させる。ウクライナ戦局はロシア軍が圧倒的優位に立っている。プーチン氏は和平交渉に応じる場合、占領下に置いたウクライナ東部の併合など、ロシア側に好都合な条件で譲らないとの見方が多い。しかし、バイデン政権の置き土産である対露金融制裁の強化によって、ロシア経済の疲弊が一挙に表面化しつつある。プーチン氏盟友の中国・習総書記もまた前述のように米国による2次制裁にビビって対露金融協力に及び腰なので、ロシアの対外貿易は混乱している。金融制裁には中露とも弱いのだ。
日欧はトランプ次期政権に対し、対露制裁の継続を強く求め、ロシア側の譲歩を引き出すべきだ。 (産経新聞特別記者・田村秀男)