フランス映画界の至宝カトリーヌ・ドヌーヴが、シラク元仏大統領の夫人で自身も政治家だったベルナデット・シラクを演じた映画「ベルナデット 最強のファーストレディ」（公開中）が痛快だ。「事実を自由に脚色」したとあって、エスプリの効いたユーモアが満載。それでいて婦人の地位向上や、女性の政治進出への皮肉が絶妙にちりばめられている。
シラクといえば飾らない庶民派で、相撲好きの親日家としても知られたが、本作が描く姿はあくまでも〝妻目線〟。男尊女卑思考の亭主関白でオンナ好き。一方で政治家としては辣腕をふるったのかといえば…。
1995年にシラクが大統領に就任してから、極右のル・ペンに勝って2期目を務めた2007年までの12年が描かれるが、妻が肌感覚で極右の台頭を忠告しても、夫も官邸も聞く耳を持たない。大統領の広報アシスタントを務める娘クロードからも軽視され大統領夫人としての仕事すら与えられないベルナデットは〝復讐〟に出る。
参謀の進言で、イメチェンをはかってメディアを味方につけ、ついには国民的人気を得る。シラク人気が陰りを見せ、政治的窮地に立たされると助け船を出す立場に。
英ダイアナ妃が事故死した直後、一時的に連絡が取れないシラクを心配して官邸が大捜索すると〝不倫現場〟に居た…など、いかにもありそうな脚色が冴える。夫婦の愛憎を乗り越え、民意に寄り添おうとしたベルナデットに拍手。（中本裕己）