連載初回にも触れたが、草笛光子主演の最新作「九十歳。何がめでたい」が21日から公開される。高齢化時代を皮肉るようなテーマだが、少しさかのぼれば2021年に「老後の資金がありません!」(前田哲監督)という映画があった。これも高齢者がどう生きればいいかというシビアな問題をコメディーという甘くて苦いオブラートに包んで描いたものだった。
草笛も出演しているが「九十歳。何がめでたい」の予行演習かのように映る。主演は19年ぶりに単独主演を飾った天海祐希と渋さ抜群の松重豊のコンビ。氷川きよしが映画の主題歌を初めて歌うということも話題になった。
草笛は自著「90歳のクローゼット」(主婦と生活社)で「私の習慣はいたってシンプルです。簡単な体操をする、梅干し入りの煎茶を飲む、両親の仏壇にお参りする、新聞を読む、それで心身を整えることができるのです」と書いている。
「老後~」も「九十歳~」もまさにこの元気ばあちゃんの延長で、映画の中でも実践しているかのようだ。映画と現実がピッタリ合致するので、思わず笑ってしまう。
どこまで本音かは不明だが、あるインタビューではこんな発言も。
<老いとの闘いが日々のテーマです。何をするにも億劫で、朝起きるときは、「ほら、動きなさい!」と自分を叱咤激励。夜はお風呂で、「今日一日ちゃんと過ごせた?」と一人反省会をします>
どちらも本音なのだろう。いずれにしても「高齢な女優さんが、なんでこんなに品があるの?」とか「あの長セリフには脱帽」というファンの声が圧倒的だった。
面白いのは劇中のおふざけ。草笛の顔のほくろの位置がシーンによって移動していたことに気がついた人はどれほどいただろうか。「獄門島」での金歯のシーンもそうだが、こちらも草笛自身の発案かもしれない。意外と茶目っ気のある人だから。
こんなエピソードも。本番前に前歯がポロリと1本取れてしまった。すると監督が「そのまま映させてくださいと、私のひどいところを全部撮ったのよ」と明かしていた。それでも品があるから不思議だ。こんなこともあけすけに明かす女優は他にいないだろう。
まさに高齢化時代の輝けるトップランナーだ。 (望月苑巳)
=おわり
■草笛光子(くさぶえ・みつこ) 1933年10月22日生まれ、90歳。横浜市出身。50年に松竹歌劇団(SKD)に入団。在籍中の53年、映画「純潔革命」で銀幕デビューも果たした。テレビ黎明期の58年、「光子の窓」で人気を得る。99年に紫綬褒章、2005年には旭日小綬章を受章している。
■老後の資金がありません! 2021年10月30日公開。前田哲監督。主演は天海祐希。