定年退職後の生活を支える基盤はやはり公的年金です。公的年金だけで十分に生活ができるなら、落ち着いて自分の居場所探しもできるでしょう。
まず、厚生労働省の「2023年国民生活基礎調査の概況」(2022年時点)から、65歳以上の高齢者世帯の総所得に公的年金・恩給が占める割合を見てみます。
それによると「公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯」、つまり「公的年金だけが所得」という世帯は全体の44%。高齢者世帯の半分近くは公的年金だけが所得であることがわかります。
また、同調査では、高齢者世帯の2021年時点での総所得は年間約318万円としています。平均すれば月26・5万円ですから、つつましく暮らせばやっていけそうな金額でしょう。
その約318万円の中心的な所得はやはり「公的年金・恩給所得」で、年に約200万円。その他に約118万円を別の形で得ている、あるいは補塡(ほてん)していることになります。
118万円の内訳を見てみると、まず「稼働所得」が約80万円です。80万円のうち65万円が雇用者所得で、勤め先から支払いを受けた給料・賃金・賞与などの合計金額になります。アルバイトなり副業などで年間65万円、つまり月に5万―6万円程度を得ているのが平均的な姿のようです。
さらに「財産所得」(土地や部屋などを貸して得た所得など)が年に約17万円、「年金以外の社会保障給付金」が年に2万円、「仕送り・企業年金・個人年金・その他の所得」が年19万円となっています。
ここまで見てきて、疑問が湧いてきます。「公的年金・恩給所得」が年約200万円とすれば、平均すれば月16・6万円。「公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%」と答えた44%の世帯は、本当に公的年金だけでやり繰りできているのでしょうか?
ひとつ考えられるのが、「恵まれた公的年金額の世帯であること」。「公的年金が年約200万円」というのはあくまで平均値であり、例えば夫婦両方が正社員や公務員として定年まで共働きを続けた世帯は、月額30万円以上の年金額になる場合も十分あるでしょう。
「公的年金が100%の所得」で暮らしている人たちの多くは、恵まれた金額の公的年金を受け取っているのではないでしょうか。ただ、そうではなく、平均額の約200万円またはそれ以下で暮らしている世帯はかなり厳しい暮らしを強いられます。
そこでもうひとつは「貯蓄の取り崩しでカバーしていること」。同調査では、高齢者世帯の「1世帯当たり平均貯蓄額」は約1604万円としています。さらに「貯蓄が減った」と答えた人が40%を超えており、貯金を取り崩している人も少なくないと推測できます。
やはり、公的年金だけで生活をまかなっていくのは大変ではないかというのが結論です。
■藤木俊明 副業評論家。自分のペースで働き、適正な報酬と社会とのつながりを得ることで心身の健康を目指す「複業」を推奨。著書に『複業のはじめ方』(同文舘出版)など。