自民党の小泉進次郎元環境相(43)は6日、東京都内で記者会見し、党総裁選(12日告示、27日投開票)への立候補を正式表明した。これまで、派閥裏金事件を受けた「党改革」や、党是である「憲法改正」への見解は一部披露されたが、「選択的夫婦別姓制度の導入賛成」など、岸田文雄政権で離脱した「岩盤保守層」が警戒しそうな一面もある。知名度の高さから最有力候補といわれるものの、小泉氏には重要閣僚や党4役の経験はない。中国やロシア、北朝鮮が軍事的威嚇を繰り返すなか、冷酷かつ狡猾な独裁者を含む世界各国のリーダーらを相手に、日本のかじ取りを任せられるのか。ジャーナリストの長谷川幸洋氏は、小泉氏の「経験不足」「力不足」に迫った。
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自民党総裁選は「小泉進次郎氏が最有力」との見方が広がっている。だが「小泉氏に内閣総理大臣の重責が務まるのか?」という懸念があるのも確かだ。小泉政権が誕生するなら、まずは「どれほど有能な側近たちで周囲を固められるか」が鍵を握る。
各種世論調査では、小泉氏と石破茂元幹事長(67)、高市早苗経済安保相(63)らが、「総裁にふさわしい人」の上位を占めている。中でも、「小泉氏が頭一つ抜け出た」とみられるのは、個人的人気もさることながら、菅義偉前首相や二階派の事務総長だった武田良太元総務相らが支持しているからだ。
すでに、「地方票は100票前後、国会議員票も菅、武田両氏だけで70~80票を固めた」という見方もある。「国会議員に人気がない」と言われる石破氏や高市氏が追いつくのは、なかなか難しいかもしれない。
最大の不安材料は本人だ。
小泉氏は環境相時代に「スーパーのレジ袋有料化」の旗振り役になったが、後に「有料化で環境問題が解決するわけではない」と認めるなど、迷走気味だった。発言も「意味不明なポエム」「進次郎構文」などと揶揄(やゆ)されている。
かといって、いまさら「総理の勉強」をする時間はない。となれば、脇をどれだけ固められるか、が重要になる。当然、菅、武田両氏の役割が重くなるが、とりわけ菅氏だ。
菅氏は安倍晋三政権の官房長官として、霞が関ににらみを利かせた。その威光は、いまも衰えていない。
小泉政権になれば、閣僚や自民党役員の重要ポストはもちろん、最側近の首相秘書官人事でも、菅氏の意向が反映されるだろう。それは当然、政策にも影響が及ぶ。
例えば、本紙コラムニストの高橋洋一氏(元内閣参事官)だ。
私は近くで見聞きしていたので、良く知っているが、高橋氏は安倍、菅政権で「首相の知恵袋」として大きな役割を担った。小泉政権でも、菅氏を通じて同じような役割を担うかもしれない。
それでも、来年の通常国会が始まれば、小泉氏が答弁する場面は避けられない。もしも野田佳彦元首相のような弁論巧者が立憲民主党の代表になれば、いくら側近が優秀でも、窮地に追い込まれる場面もあるだろう。
外交も不安材料だ。ここは、十分な経験を積んだベテランを外相と首相補佐官などに起用して、彼らを軸に外交を展開するほかないだろう。
小泉氏が切り抜けられるとすれば、父親の純一郎元首相のように開き直れるかどうか、ではないか。元首相はかつて国会で自身の年金加入歴を問われて、「人生いろいろ、会社もいろいろ、社員もいろいろだ」などと答弁し、野党の追及をかわした。
元首相は自分が理解できたことだけを語って、理解できないことは言わなかった。高橋氏によれば、本質を見極める直感力もあった。進次郎氏に、それがあるかどうか。
来年夏の参院選を控えて、国会で立ち往生するようなら、再び政局が流動化する展開も十分にあり得る。
小泉氏の勝利は確実でもない。麻生太郎副総裁はライバルの菅氏が権勢を振るう政権の誕生を阻止するために、高市氏に肩入れする可能性もある。麻生氏とすれば、安倍氏が推した高市氏を支持するのは、毛嫌いしている石破氏の決選投票進出を阻止し、かつ「安倍政治を継承する」という大義名分にもなる。
総裁選の行方は、まだ予断を許さない。
■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア―本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。
【自民党総裁選に出馬意欲を示している議員】
青山繁晴参院議員(72)
石破茂元幹事長(67)
加藤勝信元官房長官(68)
上川陽子外相(71)
小泉進次郎元環境相(43)
河野太郎デジタル相(61)
小林鷹之前経済安保相(49)
斎藤健経産相(65)
高市早苗経済安保相(63)
野田聖子元総務相(64)
林芳正官房長官(63)
茂木敏充幹事長(68)