女流棋戦では相変わらず、福間香奈(旧姓・里見)五冠と西山朋佳女流三冠の、二強時代が続いている。
しかし女流棋戦には、どうしても避けられない問題がある。それは妊娠・出産をすると、対局ができなくなる時期があることだ。
これが男性棋士なら、体調が悪くてタイトル戦が指せない事態になれば、自己責任として、不戦敗で処理されるものと思う。
しかし女性ではそう簡単にはいかない。しかもスポンサーが『働きながらの子育てを応援する』会社だと、尚更だ。
とはいえ、福間のようにタイトルを5つ持っている上に、挑戦者になる確率の多い棋士は、一年中がタイトル戦の季節になる。
優勝賞金が、女流棋戦最高の1500万円の「ヒューリック杯白玲戦」。今年の挑戦者になった福間は、2勝2敗と五分の戦いを演じていたが、第5、6局と体調不良のため対局ができず、不戦敗で西山の防衛となった。
これは恐らく、どうやっても延期ができないための、苦渋の選択だったと思う。
この他、女流王将戦も福間は挑戦者となった。
第1局はスポンサーである霧島酒造の『霧島創業記念館「吉助」』(宮崎県都城市)で行われたのだが、この時は体調が良かったか、現地まで出かけ、相振り飛車の将棋を見事な指し回しで勝利した。
しかし第2局は体調不良のため、不戦敗となっている。
また女流王座戦では、西山を挑戦者に迎えての防衛戦となるが、第1局だけ10月に『ホテル椿山荘東京』で指して、福間が勝利。後の第2局以降は、来年2月以降に指すことが決まっている。
結局この2人は、防衛戦か挑戦者でと、ほとんど全部のタイトル戦に出ているように見える。
しかし11月から始まる大山名人杯倉敷藤花戦では、久々に伊藤沙恵女流四段が挑戦者となり、福間―西山の連続タイトル戦が途切れている。
普通なら第2局以降は倉敷市で行われるのだが、今回は倉敷市も気を使い、すべてが関西の将棋会館での短期決戦になっている。
奨励会の三段リーグの時は、西山の方が一歩先を行っていた感があったが、女流棋界で争う現在は、福間が一歩リードしている。
今後はやはり三段リーグに在籍した、中七海女流三段や、伊藤女流四段、加藤桃子女流四段なども入って、多彩な戦いが見られるものと期待している。
■青野照市(あおの・てるいち) 1953年1月31日、静岡県焼津市生まれ。68年に4級で故廣津久雄九段門下に入る。74年に四段に昇段し、プロ棋士となる。94年に九段。A級通算11期。これまでに勝率第一位賞や連勝賞、升田幸三賞を獲得。将棋の国際普及にも努め、2011年に外務大臣表彰を受けた。13年から17年2月まで、日本将棋連盟専務理事を務めた。