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杉山大志 再エネ利権を一掃せよ 完全に破局「脱炭素」のいま 気候変動は国際的な問題ですらなくなる? 中露の脅威、トランプ氏復活とともに愚かな政策を止めよ

zakzak by夕刊フジ 2024年8月9日 11時0分

日本政府は「世界はパリ気候協定のもと地球温暖化を1・5度に抑制する。そのために日本も脱炭素を達成する。いま脱炭素に向けて国際的な産業大競争が起きている」としている。

だが、これは本当か?

気候変動が国際的な「問題」に格上げされたのは、リオデジャネイロで1992年に開催された「地球サミット」からである。これが91年のソ連崩壊の翌年であることは偶然ではない。

冷戦期は「米ソの協力」は不可能だった。冷戦が共産主義の敗北に終わり、民主主義が勝利したことで、ユートピア的な高揚感の中、国際協力で気候変動問題を解決しようという機運が生まれたのだ。

これは当初から実は幻想に過ぎなかったのだが、2022年にロシアがウクライナに侵攻したことで完全に破局が明らかになった。

いま、ロシアはイラン製のドローンを輸入し、北朝鮮から弾薬を購入している。中国へは石油を輸出して戦費を調達し、ドローンなどの軍民両用技術を含むあらゆる工業製品を輸入している。

かくして、ロシア、イラン、北朝鮮、中国からなる「戦争の枢軸」が形成され、NATO(北大西洋条約機構)やG7(先進7カ国)はこれと対抗することになった。ウクライナと中東では戦争が勃発し、日本周辺においては「台湾有事」のリスクも高まっている。

この状況に及んで、自国経済の身銭を切って、高くつく「脱炭素」のためにすべての国が国際協力することなど、あり得ない。戦費の必要なロシアや、テロを支援するイラン、すでに米国に匹敵する軍事予算に達したと推計されている中国が、敵であるG7の説教に応じて、豊富に有する石炭、石油、ガスの生産や使用を止めるなど、あり得ない。

かつての冷戦期にあり得なかったことは、これからの新冷戦でも起こるはずはない。あと2、3年もすれば、気候変動の優先順位は下がり、もはや国際的な「問題」ですらなくなるだろう。

次期米国大統領は「ほぼトランプ」だと言われている。ドナルド・トランプ前大統領が復活すると、米国の脱炭素政策は180度変わる。米共和党は「気候危機など存在せず、中国やロシアの方がはるかに重大な脅威だ」と正しく認識している。

それで日本はどうするのか?

ドイツなど欧州の一部とともに自滅的な脱炭素政策を続けるのか? 米国とともに、愚かな脱炭素を止め、製造業の空洞化を逆転させ、経済力・防衛力を高めるべきではないか。

■杉山大志(すぎやま・たいし) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1969年、北海道生まれ。東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員などのメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書・共著に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『亡国のエコ』(ワニブックス)、『SDGsエコバブルの終焉』(宝島社新書)など。

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