さて、今回は世界的に大ヒットした「男と女」(1966年、クロード・ルルーシュ監督)を紹介する。
「たちきれぬ過去の想いに濡れながら、愛を求める永遠のさすらい…その姿は男と女」
日本公開時のキャッチコピーだ。
第24回ゴールデングローブ賞主演女優賞、英アカデミー賞で外国女優賞を受賞したほか、本家の第39回アカデミー賞にも見事ノミネート、脚本賞に輝いている。第19回カンヌ国際映画祭では20周年グランプリ。
本作で特筆はヒロインの夫役を演じたピエール・バルーと3回目の結婚に踏み切ったこと。何と撮影2日目で意気投合し撮影終了時には恋人に昇格してしまったというからよっぽど相性がピッタリだったのだろう。
残念ながらアヌークとは長続きせず3年で結婚生活にピリオドを打った。先の2度の離婚とは違い、理由はふたりが忙しすぎたことによるすれ違いのためだった。
それにしても、本作はちょっとした会話からもセンスの良さが分かる。ホテルのレストランでウエーターにステーキを注文をした後のシーン。
「モンテカルロを何時に出たの」とアンヌ(アヌーク)。
「他に注文は?」と割り込むウエーター。
「何か注文しないと悪いみたい」
「喜ばせよう。ああ、部屋を注文するよ」とジャン(ジャン・トランティニャン)。
これでは部屋にしけこまないわけにはいかないか。
当時、ルルーシュはまだ無名で、本作のような大作は初。もちろんスポンサーはつかず資金繰りに苦労。やむを得ず身銭を切り、友人のバルーも資金集めに汗を流した。その苦労の甲斐あってか、世界的に有名になることになった。いわば出世作だ。
それにしても、ドーヴィルの海の色、ホテルのテーブルの上のシャネル、街角で彼を待っているアンヌの憂いに満ちた顔、エレガントな着こなし…、彼女のすべての立ち居振る舞いが素晴らしいのひと言に尽きる。
クール・ビューティーが少女のようにほほ笑むその落差。美しいエスプリが世界中の人をアッといわせた。「総じてジャンをアヌーク・エーメが食っている」「完全にエーメの映画だ」、といった声が圧倒的だった。さすが愛の国の大人の愛の物語。恐れ入りました。 (望月苑巳)
■アヌーク・エーメ 1932年4月27日、パリで生まれる。映画デビューは47年の「密会」。2024年6月18日、92歳で死去した。名前は日本ではエメ、エメーとも呼ばれた。