安部公房の小説「箱男」を映画化…23日公開
文豪、安部公房の人気小説を原作に、映画界の重鎮、石井岳龍監督が映画化した「箱男」が23日全国で封切られる。「32年前に安部さん本人に直接会い、映画化を約束しました。これでようやく肩の荷がおりました」と石井監督は明かす。「27年前に撮影中止に追い込まれた〝幻の映画〟だったから」とも。32年越しの撮影秘話を聞いた。
ノーベル文学賞に最も近い日本人作家―。長年そう言われてきた安部が1973年に発表した「箱男」は世界二十数カ国で翻訳されてきた。
「欧米の映画監督たちも映画化を構想。ハリウッドの重鎮、『エイリアン』のリドリー・スコットもその一人でした」と石井監督。
段ボールを頭からかぶった箱男を見た私(永瀬正敏)は自分も箱男になろうとするが、そこへ〝ニセ箱男〟(浅野忠信)や犯罪をたくらむ謎の軍医(佐藤浩市)も現れる。私は本物の箱男になれるのか―。
「27年前、日独合作で撮影が始まる前日、日本側の資金面の都合がつかず中止に。一番がっかりしたのがハンブルクに乗り込んでいた永瀬さん、佐藤さんでした」
あまりのショックで永瀬はこの後、しばらく俳優活動を休止したという。
だが、石井監督は「映画化をあきらめたことはなかった」と明かす。「途中、ハリウッドに映画化権が渡ったこともありましたが、ずっとチャンスをうかがっていました」とも。
永瀬、佐藤も同じ思いだった。安部の生誕100年となる2024年の公開に向け、数年前に企画は動き出す。役作りにかける永瀬の徹底ぶりは有名で「箱男の撮影に備え、長い間、実際に段ボール箱に入って生活していました。27年前も。もちろん今回も」と石井監督は語る。
1980年、映画「狂い咲きサンダーロード」で衝撃の監督デビューを飾った石井監督は現在67歳を迎えたが、「昨年、定年で神戸芸術工科大学の教授を退任したので、これからはまた監督業に専念したいと思います」と創作意欲は尽きない。
第一線で撮り続ける秘訣を聞くと「粘り強く。絶対にあきらめないこと」と笑った。幻の「箱男」の32年越しの公開が、この言葉の真実味を証明する。
(波多野康雅)