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日本の解き方 GDPが初めて「600兆円達成」した理由 昨年までの金融政策・財政政策の結果 10~12月期に利上げの悪影響が出る恐れも

zakzak by夕刊フジ 2024年8月27日 6時30分

今年4~6月期の国内総生産(GDP)で、名目値が年換算で初めて600兆円を超えた。安倍晋三元首相時代から目標としていた600兆円だが、最も貢献したのは何だろうか。

本コラムの読者であれば、「失われた20年」の大きな要因は、マネー不足と公共投資不足であると断じていることをご存じだろう。

マネー不足を政策に落とし込めば、金融緩和不足だといえる。一般的に金融緩和すると、インフレ率が高まり失業率が下がる。その過程で円安になり、GDP増も同時並行的に生じる。この部分だけをみると、筆者が本コラムでしばしば言及していた「自国通貨安は近隣窮乏化」である。

ちなみに、為替レート(ドル円)と名目GDPについて、ここ30年の関係を見ると、相関係数は0・76(1が最大)とかなり高い。要するに近隣窮乏化は、世界における歴史的事実をみても、日本の直近をみても観測できるのに、「円安悪者論」がいまだにはびこるのは筆者としては理解できない。

金融緩和しても、消費増税やコロナショックのようなものがあれば、GDPが増加しないこともある。だが、植田和男総裁体制の日銀ではインフレ目標を守っていれば、そこそこの成績をあげられる。岸田文雄政権では、経済をぶち壊す「大玉」がないので、マクロ経済運営は楽なはずだ。

植田日銀は、今年に入ってからインフレ目標を逸脱した利上げを相次いで行ったが、昨年までは黒田東彦(はるひこ)総裁時代の方針を継続しており問題はなかった。金融政策の効果はゆっくりなので、黒田日銀と昨年までの植田日銀の政策効果により円安と名目GDP600兆円を達成できたというわけだ。

黒田日銀も植田日銀もインフレ目標は同じであり、状況に応じた金融政策が求められる。黒田日銀では、2度の消費増税とコロナショックがあっため、インフレ目標は達成できず、金融緩和を継続した。

植田日銀では、こうしたマイナス要因がなかったので、一応インフレ目標はクリアした。しかし、金融政策は実体経済の動きより遅れて行う「ビハインド・ザ・カーブ」の原則を知らないのか、利上げに前のめりで、インフレ目標下の金融政策はうまくない。

インフレ率は2%を超えたが4%にも達していない。しかもさらなるインフレ加速リスクがないにも関わらず金融引き締めをするのは、インフレ目標に反している。ここが政策運営が下手なところだ。

岸田政権は、財政では目立った緊縮や増税をしていないが、「ステルス増税」で小さな緊縮を行っている。だから、GDPを大きく減らすようなことはしていない。もっとも、最低賃金の引き上げはやりすぎだ。

しかし、植田日銀の2度の利上げはボディーブローのように今後効いてくる可能性がある。

株価は半年先のGDPを一部先取りするといわれている。4~6月期で600兆円超えは、昨年までの金融政策や財政政策の結果だ。10~12月期には、利上げその他の悪影響が出るかもしれない。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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