ウクライナ侵攻勃発以降、日本との外交やビジネス交流が寸断されているロシア。しかし、観光庁がまとめた2024年の統計によれば、訪日外客の旅行支出の国別の伸び率で、ロシアは首位となっている。日本政府観光局の統計でも、ロシアからの訪日客の伸び率は主要国のなかで2位なのだ。
欧米諸国からの経済制裁やルーブル安で、国民は余裕のない生活を余儀なくされているのかと思いきや、日本で旺盛な消費を見せつけている。
昨年末、商用で訪日したモスクワ在住の旧知のユダヤ系ロシア人と、食事をともにする機会があった。彼は貿易業を自営する30代後半の独身男性で、ロシア上位中産階級に属するとみられる人物だった。
一貫2000円のウニ軍艦巻き4度おかわり
会食にあたっては「寿司が食べたい」というリクエストがあったので、予算を聞いたところ、「1人2万円程度」との答えが返ってきた。結局、筆者自身の懐の都合もあり、もう少し安い店を予約したのだが、彼は1万2000円のコースを食べ終えたのち、一貫2000円のウニの軍艦巻きを4度もおかわりした。こちらはヒヤヒヤしながら勘定を頼んだが、結局、「安かったからおごるよ」という彼に、ごちそうになってしまった。なぜそれほど景気がいいのだろうか。
彼によると、長引く戦争にもかかわらず、ロシア経済は堅調をキープしているのだという。エネルギー資源が豊富であることや、軍需産業の伸びが他の産業にも波及し、国民の所得が増えているというのが見立てだ。
彼自身も含め、開戦直後にルーブル暴落への警戒感から、預貯金を仮想通貨や金などに換え、その多くの人が、売却益を得ているという。ただ、インフレも同時に進行しているため、生活は楽ではない。しかし、ロシアから日本のような低インフレ率の国にくると、何もかもが安く感じられると話す。
寿司をごちそうになったのはありがたかったが、何とも情けない気分にもなった。なにせ、戦争真っただ中の国から来た外国人にすら、購買力ですっかり負けてしまっているのである。
=おわり
外国人材の受け入れ拡大や訪日旅行ブームにより、急速に多国籍化が進むニッポン。外国人犯罪が増加する一方で、排外的な言説の横行など種々の摩擦も起きている。「多文化共生」は聞くも白々しく、欧米の移民国家のように「人種のるつぼ」の形成に向かう様子もない。むしろ日本の中に出自ごとの「異邦」が無数に形成され、それぞれがその境界の中で生きているイメージだ。しかしそれは日本人も同じこと。境界の向こうでは、われわれもまた異邦人(エイリアンズ)なのだ。
■奥窪優木(おくくぼ・ゆうき) 1980年、愛媛県出身。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国で現地取材。2008年に帰国後、「国家の政策や国際的事象が、末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに取材活動。16年「週刊SPA!」で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論され、健康保険法等の改正につながった。新著「転売ヤー 闇の経済学」(新潮社)=写真=が話題。