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石破政権「机上の空論」国家安全保障最前線 国内外の政治家は石破首相を見切った 世界に公表「アジア版NATO」の非現実さ 求められる集団的自衛権行使も「憲法改正」の記述なし

zakzak by夕刊フジ 2024年10月17日 11時0分

石破茂首相は、米シンクタンク「ハドソン研究所」のホームページで発表した寄稿文「日本の外交政策の将来」で、持論である「アジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設」について以下のように書いている。

「今のウクライナは明日のアジア。ロシアを中国、ウクライナを台湾に置き換えれば、アジアにNATOのような集団的自衛体制が存在しないため、相互防衛の義務がないため戦争が勃発しやすい状態にある。この状況で中国を西側同盟国が抑止するためには、アジア版NATOの創設が不可欠である」

しかし、「アジア版NATO」は机上の空論である。

アジア版NATOの創設が可能だと思っている政治家や安全保障専門家はほとんどいない。ジョー・バイデン米政権も、アジア版NATOの創設は非現実的だという認識で、日本などの同盟国や友好国との連携強化による実際的な「格子状」の同盟政策を推進しているのだ。

「格子状」の同盟政策とは、同盟国やパートナー国との関係を、従来の二国間(日米同盟、米韓同盟など)や単独の集団安全保障協定にとどまらず、複数の国々が多層的・多面的に連携する形で構築し、強化していく政策のことを指す。

日本、米国、オーストラリア、インドによる戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」や、米国と英国、オーストラリアによる安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」を含んだ重層的な秩序だ。

「アジア版NATO」創設の主張は、安倍晋三政権から岸田文雄政権まで推進してきた「自由で開かれたインド太平洋」構想を核とした外交・安全保障政策や、米国の「格子状」の同盟政策を否定する行為である。

石破首相はまた、「集団安全保障」と「集団的自衛権に基づく集団防衛」の違いを混同している。

石破首相は「アジア版NATO」を「集団安全保障」と発信しているが、これは国際安全保障の専門的な定義としては誤りである。集団安全保障は本来、国連安保理の決議に基づき、加盟国が侵略行為など取り決めに違反した国に制裁を加え、平和を回復する仕組みだ。

攻撃を受けた他国を義務として助けるのは集団安全保障ではなく、集団的自衛権に基づく集団防衛である。つまり、アジア版NATOは集団的自衛権に基づく集団防衛の組織である。

もしも、日本が「アジア版NATO」創設を主導するのであれば、日本には集団的自衛権の行使が求められる。つまり、憲法を改正して集団的自衛権の行使が可能な国家になる必要がある。

しかし、石破首相のハドソン寄稿文には憲法改正の記述がない。これは大きな問題だ。「アジア版NATO」創設は机上の空論であり、憲法改正は実現すべき現実論なのだ。

石破首相が所信表明演説(4日)などで「アジア版NATO」に言及しなくなったのは喜ばしいことである。ただ、寄稿文を世界に公表したために、国内外の政治家や研究者は石破首相を見切ってしまったことを認識すべきだ。

わたなべ・よしかず 元陸上自衛隊東部方面総監、元富士通システム統合研究所安全保障研究所長、元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー。1955年、愛媛県生まれ。78年東京大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、第28普通科連隊長(函館)、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。13年退職。著書・共著に『日本はすでに戦時下にある』(ワニブックス)、『宇宙安全保障』(育鵬社)、『台湾有事と日本の安全保障』(ワニブックスPLUS新書)など多数。

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