電気自動車(EV)の失速を背景に、各国の自動車メーカーでリストラが相次いでいる。低価格でシェアを拡大してきた中国メーカーにも欧米の制裁関税による逆風は強い。ここで注目されるのがドナルド・トランプ次期米大統領の存在だ。米EV大手テスラのイーロン・マスク氏も政権入りするが、トランプ氏はEV市場にとどめを刺すのか、それとも生かすのか。その動向は、日本車メーカーの行方も左右しそうだ。
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■トヨタは?日本車は?
ドイツは昨年12月、BEV(電池だけを使う電気自動車)の購入補助金を廃止した。ドイツ大手のフォルクスワーゲン(VW)はEV開発に巨費を投じてきたが、設立以来初となる同国内での工場閉鎖を検討している。同国の自動車部品大手ボッシュも世界で中期的に約5500人の人員を削減する計画だ。
エネルギー事情に詳しいユニバーサルエネルギー研究所の金田武司所長は「欧州メーカーの不況の一因はEVだ。エネルギー価格や物価が高騰するなか、消費者は安価な中国製のEVにシフトした。また、高額のEVでは中古市場が成熟していないEVには不安を持つ。メーカーの生産コストも上がり、補助金廃止も不振に拍車をかけた。ドイツ最大の産業である自動車業界の経営合理化は非常にインパクトが大きい」とみる。
中国EV大手、比亜迪(BYD)の1~6月の海外販売比率は前年同期比で倍増した。これに対し、ジョー・バイデン米政権は9月、中国製EVに対する制裁関税を25%から100%に引き上げた。
さらにトランプ次期政権の移行チームは、バイデン政権が導入したEV購入に伴う税優遇策の廃止を検討しているとロイター通信が報じた。トランプ氏は「EV普及の義務を(大統領就任初日に)終了する」とも公言している。
早稲田大学公共政策研究所招聘研究員の渡瀬裕哉氏は「中国経済は不動産不況に襲われ、頼みの綱がEVの輸出だ。欧州とも今後、関係悪化が見込まれるなか、中国は米国に活路を見いだそうとするが、トランプ政権はバイデン政権以上に関税をかけるだろう。中国製EVの行き場がなくなる可能性もゼロではない」とみる。
■優遇策「廃止」支持も…
トランプ政権入りしたマスク氏も優遇策の恩恵を受けていたはずだが、優遇策の「廃止」を支持している。
渡瀬氏は「優遇策が廃止されてもテスラは〝一強〟として生き残る可能性が高いためだろう。ただ、トランプ氏には二枚舌な側面もある。マスク氏が手掛ける宇宙産業(スペースX)やSNS(X=旧ツイッター)とともにEVも米国の戦略産業として残しておきたい思惑もうかがえる」と指摘した。
国内勢では、トヨタ自動車が次世代EVの生産開始を27年半ばに遅らせる方向で調整している。同社は現在ハイブリッド車(HV)が好調だ。
前出の金田氏は「日本も欧州の外交や米国の次期政権の関税などの動向を見極める必要がある。今後、HVやエンジン車という〝お家芸〟が活路を見出せるかもしれない」と語った。