■愛着のある役との共通点
数々のドラマ、映画で活躍の名バイプレーヤーだ。還暦を過ぎ、俳優として年を重ねることについては「とても幸せなことだ」と笑顔を見せた。
「僕は年を取ってから、なるべくメークをしないようにしているんです。シミとかシワがたくさんできているので、メークしてそれを消してしまうのは、ちょっともったいないなと感じるんです。自分が年を重ねてきたことを前面に出せるようにしています」
老いていく姿も隠さず見せていく姿勢に〝俳優魂〟を感じさせる。
12月6日から「劇場版 ドクターX FINAL」(田村直己監督)が公開される。2012年から7シリーズにわたってテレビ朝日系列で放送された連続ドラマが、劇場版となってついに完結。今作では、主人公の孤高の外科医・大門未知子(米倉涼子)がなぜドクターXになったのか、その誕生の秘密が描かれる。
彼は同シリーズで12年間、「群れを好み、金を愛し、腹腔鏡のスキルと要領の良さだけを武器に持つ医師・加地秀樹役」を演じ続けてきた。
「地方に行っても『加地秀樹』って呼ばれるんです。終わってしまって寂しいというよりも、僕の中には加地君が半分いるので、僕にとっては終わることはないのかな」
ファイナルになっても、彼の中で加地秀樹は生き続けるほどの一体感を持っているのだ。
そんな愛着のある役との共通点について聞いてみると、「性格がゆがんでいるとこじゃないでしょうか」と真面目な顔で冗談を言った。
「僕もちょっと天邪鬼なところがあって、ストレートでいくよりも、常にカーブをかけるところがあるので、それが加地君にも表れてきているのかも。もうどっちがどっちなのかも、わからなくなっていますけど」
映画公開に先駆けて、劇場版につながる新たな物語を描く、加地先生が主人公のスピンオフドラマ「ドクターY~外科医・加地秀樹~」(テレビ朝日系)が、30日に放送される。
「他のスピンオフと違うのは、普通に(本編の)主役をはじめ、主要人物が全員出ているということ。そんなスピンオフはあり得ないんですけど。今回は困ったことに、感動的なストーリーになっているんですよ。医療コントドラマのはずなのに!」とカーブの効いたPRをした。
筆者は劇場版を見たが〝究極の医療〟を描いていて、ファイナルにふさわしい見応えのある作品になっていた。スピンオフドラマとセットで楽しむのがいいだろう。
映像の仕事だけでなく、舞台にもコンスタントに立っている。
「僕はもともと劇団から始めたので、舞台をやることが普通というか、やらなくちゃしようがないような気持ちでいます。でも、いつまでたっても舞台には苦手意識はありますね。蜷川幸雄と鴻上尚史という人のせいなんですけども」と真顔で言いながらも、そこには2人の名演出家への愛情がのぞく。
■2人の師匠「真逆の演出」
「2人はとにかく真逆の演出をするんです。怒鳴ってあおる蜷川さんと、真綿で首を絞めるような演出をする鴻上さんが師匠だったので、常にこのラスボスと対峙しているような感じ…たたきのめされることが多かったのですが」
面白おかしく話しながらも、「だから、今でも何かをするときは、蜷川さんや鴻上さんから、よかったって言ってもらえるような芝居ができたらいいなって思うんです」と尊敬の念を表した。
今作に限らず、医療ドラマに出ることが多いが、それが日常生活でも役立っているという。
「今まで3人くらい救ったことがあるんです。例えば、街で小さなお子さんとお母さんが歩いていたのですが、子供が白目をむいて倒れて、お母さんがパニックになってしまったんです。そのとき、とっさに子供を横に寝かして気道確保をして、救急車に電話して状況を説明しました。知人のドクターにも電話をして経緯を説明したら、『完璧です』って言われました」
ドラマで疑似体験をしていても、ここまでできるのは、すごいことだ。やはり彼の中には、加地秀樹がいるに違いない!
■勝村政信(かつむら・まさのぶ) 俳優。1963年7月21日生まれ、61歳。埼玉県出身。ニナガワ・スタジオを経て、87年に劇団「第三舞台」に入団。退団まで主要メンバーとして活躍。ドラマ、バラエティー、舞台と幅広く活躍。現在、ドラマ「マイダイアリー」(テレビ朝日系)に出演中。ドラマ「ドクターY~外科医・加地秀樹~」(テレビ朝日系)は11月30日(土)午後9時から放送。