「手のひら返し」とはまさにこういうことをいうのだろう。
兵庫県知事選、斎藤元彦前知事が当選したとたんに、これまでやれ「パワハラ」だ、やれ「おねだり」だと一方的に報じてきた新聞・テレビは、ホコ先を変えるためだろう、「SNS」「SNS」の一点張り。
ようするにSNSの発信が斎藤知事を勝利に導いたというのだ。
「SNS『応援広がった』」(18日朝日)
「SNS『空中戦』で勢い」(18日読売)
「SNS駆使 支援のうねり」(18日毎日)
ワイドショーでは「識者」「専門家」がしたり顔でSNSについて解説している。
今回の選挙でSNSが大きな役割を果たしたことは確かだろう。
斎藤陣営でこうした活動を担った「デジタルボランティア」は当初10人ほどだったが、LINEで募ると400人が集まり、<街頭演説や支持者と交流する様子を撮影・編集し、SNSで拡散させた結果、斎藤さんのXのフォロワーは、9月末の約7万人から約1か月半で約19万人に急増。ホームページで募った寄付は、3500件以上(14日現在)に達した>(18日読売)
県議会で不信任決議を受けて失職した9月30日朝、斎藤氏がJR須磨駅前で街頭演説を開始したときはたった一人。話しかける人さえ、殆(ほとん)どいなかった。
ところが投票日3日前に西宮市の商業施設の前で、斎藤氏の街宣に集まったのは約1000人。最終日の三宮センター街一帯は集まった人で溢れ返った。
むろん、「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が知事候補として選挙戦に参入、勝手に斎藤氏の応援団として斎藤氏擁護の応援演説、SNSの発信を続けたことも大きい。
<告示日以降、斎藤氏本人のチャンネルの視聴数は計119万回だったのに対し、立花氏は100本以上の動画を投稿し、合計視聴数は計1499万回に上った。これらの切り抜き動画を配信するチャンネルも計1298万回再生された>(19日毎日)
今回の知事選でSNSが大きな力を発揮したことは事実だろう。だから、そのことを報じるのはいい。当然と言えば当然だ
しかしである。
ワイドショーや週刊誌、新聞は、斎藤知事に関してこれまで「パワハラ」「おねだり」と散々報じてきた。
ワインを貰(もら)った、牡蠣(かき)を独り占めして家に持って帰った、ゴルフのクラブを貰った……。
さらに、斎藤知事を告発した県民局長を自殺に追いやったのが、あたかも斎藤氏であるかのように報じ続けた。
県議会で不信任決議が可決されたとき、新聞各紙は社説で「辞職以外に道はない」(9月21日朝日)などと書き、理由として「職員に対するパワハラ」「贈答品の節操のない受領」などを挙げていた。
9月26日のこのコラムでも書いたが、斎藤知事の功績、例えば県立大学の無償化、知事給与の3割カット、1000億円新庁舎建設の白紙化などについては、テレビも新聞も殆ど報じなかった。
自殺した元県民局長と斎藤氏が10年以上の付き合いで、何かあれば局長として進言できる立場だったことに触れたメディアも殆どない。
で、今になって、報じなかった責任を免れるためか、SNS、SNSの大合唱。
報道でSNSに負けた自らの責任は、どう落とし前をつけてくれるのか。 (月刊『Hanada』編集長・花田紀凱)