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ニュース裏表 峯村健司 中国による「封鎖」でリアルなテレビドラマも 台湾現地ルポ 強まる圧力と対峙、最前線にいる人々の危機感に変化

zakzak by夕刊フジ 2024年8月10日 10時0分

約3カ月ぶりに筆者は出張で台湾に来ている。頼清徳政権高官らと意見交換をするためだ。訪台する度に「有事への危機感」が高まっているのを肌で感じる。最近、中国側による台湾への圧力が強まっていることが背景にある。

台湾国防部によると、3日から4日にかけてドローンを含む31機の中国軍機と12隻の艦艇が台湾海峡周辺で展開をした。うち2機のドローンは台湾が設ける防空識別圏(ADIZ)に北西から侵入した後、台湾本島を周回した。その後も、連日のように中国の軍用機と艦艇が台湾周辺で演習を展開している。頼政権で安全保障政策を担う高官は言う。

「政権発足後、中国による軍事的圧力は急速に高まっている。台湾を〝包囲〟できる意図と能力を誇示する狙いがあるのだろう。わが国の海と空において不測の事態がいつ起きてもおかしくない緊迫した状況が続いている」

拙著『台湾有事と日本の危機』(PHP新書)で紹介した通り、中国が軍事演習や海警局の監視船を使って台湾を「封鎖」するシナリオが現実のものとなっているのだ。

こうした状況を受け、台湾の当局や市民の意識も変わってきているようだ。

『2025~2027 台湾海峡開戦』『中国はどのように台湾を攻撃するのか』

こうした刺激的なタイトルがついた「台湾有事」を取り上げた書籍が台北市内の書店で平積みされている。

テレビでは、中国軍が台湾を侵攻することを想定したテレビドラマ「Zero Day」が近く放送される。シナリオは次のような展開だ。

「中国人民解放軍が台湾を包囲。サイバー攻撃によって金融システムが故障して現金が引き出せなくなり、外国人は脱出を図る。潜伏していた工作員が水道や電気などのインフラを破壊し、刑務所では暴動が起きる。生活品が枯渇してきたところに、中国軍が上陸を始める」

筆者が作成しているいくつかのシナリオにも近似しており、リアルな内容だ。

台湾当局も本格的な対応に乗り出している。

頼政権は6日、新型戦闘機の購入のための特別予算などを含めた総額6480億台湾ドル(約2兆8000億円)の防衛費を来年度計上することを明らかにした。過去最高を更新し、有事への危機感の表れといえよう。

こうした変化は目を見張るものがある。

昨年までは、筆者から台湾当局や軍の高官らに対し、有事の可能性について話題を振っても、あまり関心を示さなかった。それどころか、「中国側の脅しは『張り子の虎』なので心配していない」といったものから、「中国は同胞である、われわれを殺すようなことをしない」など、根拠が乏しい楽観論が蔓延(まんえん)していた。

中国と対峙(たいじ)する最前線にいる台湾の人々の、この1年足らずの激変ぶりは、有事が現実化しつつあることを示す重要な指標と見るべきだろう。 (キヤノングローバル戦略研究所主任研究員・峯村健司)

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