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介護現場とテクノロジー 介護の地域格差解消へ、地方が積極的に製品を現場投入 超高齢社会をテクノロジーと共に乗り切る…成功事例の海外展開にも期待

zakzak by夕刊フジ 2024年7月26日 15時30分

テクノロジー導入は介護現場をどう変えるのか。介護分野におけるテクノロジー利活用を推進する一般社団法人ケアテック協会の理事であり、排泄センサー「Helppad2(ヘルプパッド2)」を開発・販売するabaの代表取締役、宇井吉美さんは現状をこう分析する。

「介護現場のテクノロジー導入は急速に進んでいます。とくにいわゆる地方では本当に働き手がおらず、人手不足の深刻さが都会の比ではありません。テクノロジーへの理解も早く、新しい技術をどんどん現場のオペレーションに取り入れ、使いこなされています」

地域差は大きく広がっている。その背景には「足りない人員を何らかの手段で穴埋めできるかどうか」の違いがある。例えば、派遣会社の活用。人件費はかさむが、人材の補てんはできるとなれば、課題は先送りされやすくなる。

「私たちの製品もじつは地方のほうが導入が進んでいる傾向が見られます。それほどまでに人手不足が深刻化しているという側面もありますが、それだけではなく、人材教育や採用など将来への投資として、導入に踏み切る施設も多いです」

やる気のある若手スタッフにとって「積極的にテクノロジー導入を進めているかどうか」が職場を評価し、選択する基準になりつつある。実際、Helppad2の導入施設の中には数年ぶりの新卒採用が実現したケースもあるという。

「働く人が少なくなれば、ケアの質を落とさざるを得なくなる瞬間が増えてしまう可能性もあります。テクノロジーを活用し、どう食い止めるか。さらにはテクノロジーをうまく使うことで、人間だけではできなかったケアも実現できる。結果、ケアの質が上がることを、私たちメーカーも目指していきたいと強く思います」

厚労省が今月とりまとめた医療や介護領域のスタートアップ支援策。その意義はどこにあるのか。宇井さんはこう解説する。

「私たちabaもそうですが、ケアテック領域のスタートアップは『介護現場の願いを叶えたい』という思いで起業しています。そのスタートアップを支援いただけるということは、それだけ介護現場の願いが叶いやすくなることであり、現場にとって良い未来につながると考えています」

また宇井さんは今回の取り組みに関して「海外展開」という観点にも期待しているという。

「日本が現在直面している《少ない人数の介護職の方々でどうやって大勢の高齢者の方々を見守り、支えるのか》というチャレンジは世界でも類を見ない貴重なものです。日本ならではの介護の理念とテクノロジーが組み合わさり、これまでにないケアの形を生み出せる可能性がある。そして、そこでの成功事例をいち早く海外に輸出することができれば、医療・介護領域のみならず、日本全体の経済振興にもつながると考えています」

超高齢社会をテクノロジーと共に乗り切る。その苦労と英知が新たな未来を切りひらく。 (取材・島影真奈美) =おわり

■島影真奈美(しまかげ・まなみ) ライター/老年学研究者。1973年宮城県生まれ。シニアカルチャー、ビジネス、マネーなどの分野を中心に取材・執筆を行う傍ら、桜美林大学大学院老年学研究科に在籍。近著に『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)、『親の介護がツラクなる前に知っておきたいこと』(WAVE出版)。

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