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桜林美佐 国防最前線 自衛隊の〝募集難〟採用達成率は過去最低の51% 大胆な処遇改善には国の決断が必要 自衛官を「憧れの人」に

zakzak by夕刊フジ 2024年7月18日 6時30分

昨年度(2023年度)の自衛官採用は、陸海空で1万9598人の募集計画に対し、9959人。達成率は過去最低の51%だった。

また、入隊しても辞める中途退職者数は近年、4000人前後で推移している(防衛省『経験・知識のある人材の活用に関する施策について』23年5月より)。この中途退職者は年々増加しており、まもなく6000人を超えるとみられる。

防衛省では、検討委員会を設置して処遇改善などを検討するという。ただ、その内容について「給与改善」や「無人化の検討」が進むと報じられることがあり、誤解も生みそうだ。

給与は防衛省だけで決めることはできないし、無人機などの導入で人手不足は解消されない。むしろ、無人機1機の操作に2~3人の人員を要する場合もあり、専門人材の確保が不可欠だ。無人機の必要性は高まっているが、ウクライナの事例からも、戦場でどのように活かすかが論点だ。

また、防衛省が持っている権限と予算の中で、できることは限定的である。防衛費が増えたとはいえ、国家公務員である自衛官の給料など根本的な扱いは変えることはできない。ダイナミックな対策を本気で行うなら、国としての決断が必要になる。

15~64歳の生産年齢人口は現在、約7400万人。総務省によると、50年には5275万人に減少すると見込まれ、縮小し続けるパイを各業界が取り合うかたちになる。

こうした実情から、「自衛隊の募集難」と「人口減少問題」が同時に語られるようになっているが、因果関係は分からないと私は思う。

今年元日に発生した能登半島地震の自衛隊による災害派遣が、現時点でまだ続いている。金沢市などに観光客が訪れて温泉を楽しんでいるそばで、自衛隊が天幕を展開して風呂を提供している。こうした事実上、「自治体が国軍を動かす」かのような構図は、本来の国防の使命がなおざりにされているように見えないだろうか。

募集が厳しいのは日本だけではなく、米軍でも昨年目標を達成できたのは海兵隊と宇宙軍だけで、陸軍ではこの2年間で5%の人員減と言われる。

しかし、「軍の誇り」という価値観を大きく変えることはない。プロ意識を徹底することや、また個々のやりたいことができる仕組みづくりなどがむしろ求められるように感じる。

幹部自衛官が平身低頭で「自衛官募集」のティッシュ配りをすることがあるべき姿なのだろうか。自衛官には「憧れの人」になってほしい。従来の方法を見直す時代になっているのかもしれない。

■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 防衛問題研究家。1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書・共著に『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出版)、『自衛官の心意気』(PHP研究所)、『危機迫る日本の防衛産業』(産経NF文庫)、『陸・海・空 究極のブリーフィング』(ワニブックス)など。

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