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ぴいぷる 〝イケオジ〟今井清隆 にじみ出る豪快さと繊細さ…そして、人の良さ 「ラ・マンチャの男」にやられミュージカルの扉をたたく

zakzak by夕刊フジ 2024年8月28日 11時0分

多くのミュージカルに主要キャストとして出演し、力強い声と安定感から出演オファーが絶えない。それに最近は渋みを増した格好の良さで、若い演劇ファンがSNSに〝イケオジ〟と書き込むことも。

「ええっ、親戚縁者のだれかが書いてくれたんじゃないですかね」

少し戸惑いの表情のあと、「怖くてそういうのあまり見ないんですよ。けなされたら腹が立つし、悪く書かれたら根に持っちゃう。いい評判が聞こえてきたら、それだけ覚えておくようにしています。ハッハッハ」と豪快な笑いの中に繊細さをにじませた。

9月8日に東京・日生劇場で幕が開く「ミュージカル三銃士」では、国家を揺るがす陰謀を企てるリシュリュー卿を演じる。主人公ダルタニャン(末澤誠也「Aぇ!group」)や三銃士のアトス(坂本昌行)らと対峙する悪役である。

「(「レ・ミゼラブル」の)ジャベールを演じていたときもそうなんですが、『いい人に見えちゃう』と言われることがありまして。一生懸命がんばって悪役を演じると、一生懸命さに人の良さが出る。どうしたらいいんだろうと悩んだ時期もありました」

う言いながらも、向かい合って話を聞くだけで、主役を食いそうなオーラが漂う。

「稽古を見ていて、坂本君たちは、こんな剣劇見たことないってぐらいよく動くし、僕が若かったらやりたいな。殺陣師の渥美(博)さんは和物はもちろんフェンシングもすごい殺陣をつける。冒険活劇なのでとにかく見ていて楽しいですよ。ずっと新人のつもりでやっていたら(キャストの中で)一番上になっちゃった」

舞台に立って44年。今も後輩と同じ目線で毎回、熱い思いを板にぶつける。原点もやはり冒険活劇だった。

何者かになりたいと、故郷の群馬県伊勢崎市から出て、英語専門学校に通っていたころ、10代に混じって学ぶ「60ぐらいのおじさん」と親しくなった。

「ブロードウェーで英語が理解できるように学ばれていたミュージカル評論家の風早美樹さんでした。勧められて見た『ラ・マンチャの男』にやられました」

忘れられない台詞がある。市川染五郎(現・松本白鸚)演じるドン・キホーテが言い放つ。

<一番憎むべき狂気とは、あるがままの人生に、ただ折り合いをつけてしまって、あるべき姿のために戦わないことだ>

進路に迷っていた今井青年は、「要するに、夢に向かって戦わないのは、生きている意味がないのだ」と解釈し、感激のまま舞台人への扉を叩いた。翌1982年には「サウンド・オブ・ミュージック」で初舞台を踏んでいる。

「ロックバンドをやっていたので、このくらいなら歌えそうだ、と思っちゃった。バカだよね。ミュージカルは本番が始まったら1カ月間、調子を崩さずに歌い通す。それがどんなに大変なことか、やって初めて気づきました」

だから、今も演じ続けるためのメンテナンスは常に心掛けている。

「ストレスをためないこと。やりすぎたり、気をつかいすぎないことですね」といい、「たばこも吸っちゃう」と明かす。

「喉の調子が悪いときはやめますが、ふだんはちょっといじめた方が、やめたときの回復も早い(笑)。あとはよく寝ること」

ただし、酒は40代でやめている。

「飲んだ翌日、ひざがおかしくなったことがあって以来です。ミス・サイゴンでも、レ・ミゼラブルでも舞台上は、客席から見やすいように傾斜がついています。稽古場から斜めにする演出家もいて、そうなるといつも坂道に立っている感じになる。ひざを痛めないようにストレッチとアフターケアをしないと体がぼろぼろになっちゃうんです」

起きてすぐ、斜めに立つためのストレッチや軽いスクワット、腕や膝を回す運動を欠かさない。

「続けているとヒアルロン酸が自然と出てくるんですよ」

昨年4月、「ラ・マンチャの男」の大千秋楽を迎えた80歳の白鸚を見るため、横須賀の劇場でかぶりついた。54年間の主演の最後の台詞に、「今まで聴いた中で、一番説得力がありました。あんなにいい舞台がもう見られないのは悲しい。でも見られて本当に良かった」としみじみ。

そして、自身の冒険は、まだまだ先が長い。

■今井清隆(いまい・きよたか) 俳優。1957年11月5日生まれ、66歳。群馬県出身。82年ミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」で初舞台。「ラ・マンチャの男」「ミス・サイゴン」などに出演。95年に入団した劇団四季では、「美女と野獣」「キャッツ」「オペラ座の怪人」「エビータ」など。退団後も「風と共に去りぬ」「ラ・カージュ・オ・フォール」など数多くのミュージカルで主要キャストを務める。91年「レ・ミゼラブル」で菊田一夫演劇賞、96年読売演劇大賞優秀賞を受賞。

「ミュージカル三銃士」は、東京・日生劇場(9月8~28日)、広島文化学園HBGホール(10月4~6日)、大阪・SkyシアターMBS(10月18~27日)で。

来年3月、「屋根の上のヴァイオリン弾き」(明治座ほか)の出演が決まっている。

(ペン・中本裕己/カメラ・酒巻俊介)

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