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ニュース裏表 田中秀臣 財務省と日銀、責任無視の「官僚文学」が分かる金融政策レビュー 大罪を隠すため90年代後半から検証 典型は小泉政権の構造改革

zakzak by夕刊フジ 2025年1月21日 11時0分

日本銀行は最近、過去のデフレ対策を総括する「金融政策の多角的レビュー」という専門家の意見も踏まえた文書を公表した。デフレに本格的に陥った1990年代後半から現在までの日銀の金融政策についての成果と課題を検証したものだ。

この文書では、インフレ目標を踏まえた量的緩和など非正統的な金融政策の成果とその問題点がかなり詳細に記述されている。非正統的金融政策は効果があったが、他方で副作用もあったとする内容だ。ただこの種の文書は「官僚文学」として成立しているので、日銀自体の責任や、また日銀が顔色を常に見ている財務省の責任は曖昧だろうな、と公表される前から思っていたが、案の定その通りだった。

まずわざわざ90年代後半からのデフレの検証を始めたので、それ以前のバブル形成やその崩壊、その後の経済低迷といった事実関係がまったく無視されている。これらの出来事を引き起こした主犯は、日銀の政策ミスだ。90年代後半からの検証にしたのは、日銀の大罪を隠すためだ、と批判されても仕方がないだろう。

97年の消費増税の影響も軽視している。いつの間にか日本はデフレの罠(わな)にはまったことになる。おそらく日本経済自体に構造的な問題があるとでも言いたいのだろう。政治家や官僚たちが自分の失敗を隠すために、日本経済の構造的問題を持ち出すのは常套(じょうとう)手段だ。なにが「構造的問題」なのかわからないまま、日本には改革が必要だ、と言っていれば、官僚たちの責任は一切問われない。

その典型が、過去の小泉純一郎政権での構造改革だ。この構造改革が財務省の主導であったことは、今日では常識に属する。「郵政民営化すれば景気回復する」という今では噴飯ものの発言をした人たちもいた。

つまりデフレ不況の長期化を招いた財務省と日銀についてはその責任をぼかしているのが「金融政策の多角的レビュー」だ。何が多角的かわからない、とんだ茶番である。同じように非正統的金融政策が、雇用の大幅改善をもたらす一方で、なぜデフレを脱出できなかったのか、その原因も曖昧なままである。大胆な金融緩和の一方で、消費増税など緊縮財政をしたことでデフレ脱却に失敗した経緯が明瞭ではないのだ。最大の戦犯である財務省と日銀の責任について、この多角的レビューにはどこにも言及されていない。

なお非正統的金融政策での雇用の改善を無視する専門家もいるが、そのような人たちに経済を語る資格はない。アベノミクス期間中だけでも500万人以上の雇用増である。課題は、緊縮財政を打ち破り、日銀に利上げを許すことなく、国民の負担を減らし、消費を中心にした経済を構築することだ。

われわれが真に立ち向かうべきは、日銀や財務省のような腐敗した官僚組織であることを「多角的レビュー」は教えてくれる。 (上武大学教授 田中秀臣)

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