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日本の解き方 植田日銀の「理由なき」追加利上げ 収益増で金融機関は笑いが止まらないのでは 日本経済への悪影響は大きい

zakzak by夕刊フジ 2024年8月1日 15時14分

日銀は7月31日の金融政策決定会合で政策金利を0.0~0.1%から、0.25%へと利上げした。債券関係者に対する事前の調査では「日銀は利上げを見送る」との予想は74%にのぼっていた。ただし、見送るという予想の根拠は「円高基調になっているので早急な利上げの必要性が薄れた」というものだった。為替のために金利を動かすというのは、インフレ目標下での金融政策としてはまったく不合理なので、あてにならない肌感覚だったのだろう。

今回も日銀からのリークらしき複数のマスコミの利上げ報道があった。株式市場は下落し為替市場は円高に振れた。その後、揺り戻しもあり、日銀の正式決定を受けて、株価や為替の値動きは荒くなった。

筆者は利上げを時期尚早だと考えていたが、日銀は前のめりなのでやりかねないという立場だった。「やはりやってしまったのか」というのが率直な感想だ。筆者の予測は外れなかったが、日本経済全体にとって悪影響が大きく、決して望ましいことではない。

今回の金融政策決定会合をみると、追加利上げに賛成したのは植田和男総裁、氷見野良三副総裁、内田真一副総裁、安達誠司委員、中川順子委員、高田創委員、田村直樹委員の計7人。このうち岸田文雄政権での任命が5人で、安倍晋三・菅義偉政権での任命が2人だった。

反対した中村豊明委員と野口旭委員はいずれも安倍・菅政権で任命されている。

岸田政権で、総裁・副総裁を含めて過半数の5人を握られている以上、もはや安倍・菅政権での「アベノミクス」(インフレ目標下でのオーソドックスな金融政策運営)ではないといってもいいだろう。

同時に発表された経済.物価情勢の展望(展望リポート)では、2024年度の実質経済成長率見通しは「0.5~0.7%」で、4月時点の「0.7~1.0%」から下方修正された。消費者物価(除く生鮮食品)は2.5~2.6%と完全にインフレ目標の許容範囲内だ。しかも4月時点の「2.6~3.0%」より下方修正されたので、なぜ利上げなのか部外者からはさっぱり分からない。

25年度の見通しは実質経済成長率が0.9~1.1%、物価は2.0~2.3%と、ここからも利上げが必要というデータは出てこない。物価上昇率に応じて元本が変動する「物価連動債」から市場が予想するインフレ率は「1.6%」程度だ。

今回、利上げとともに、長期国債の月間買い入れ額を2026年1~3月に3兆円程度まで減額することも決められた。

本コラムでは、植田日銀について「労働者の雇用確保より金融機関の味方であることを重視している」と説明してきたが、今回の決定もその方向だ。

民間金融機関が日銀に預けている当座預金のうち、利息が付く対象は約520兆円だが、今回の追加利上げでざっくり約7800億円の収益増になる。一方、企業の金融機関に対する当座預金の利息はゼロだ。リークを受けた「早耳行動」と実際の利上げで儲けて、金融機関は笑いが止まらないのではないか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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