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BOOK 落語家・桂竹丸 〝敗者の言い分〟知ればもっと歴史が面白い アマノジャク的に戦国時代を斬った『桂竹丸の戦国ひとり旅』

zakzak by夕刊フジ 2024年6月29日 15時9分

「教科書に書かれていることだけが歴史じゃない。違う側面が必ずあるはず」―歴史を愛する落語家の桂竹丸が、大胆かつアマノジャク的に戦国時代を斬った。歴史の表舞台の華やかさだけではなく、闇の部分を知ることで、さまざまな〝人間の業〟がみえてくる。

――師匠の語り口そのままの軽妙な文章です

「落語をつくるときと同じ思いが入っているからじゃないかな。とはいえ高座では、強弱によって笑いやメッセージの深さや浅さを伝えることができるけど、文章での表現は少し難しかったね」

――歴史好きは

「小学生の頃、担任から『頭が悪過ぎる』と言われ、おふくろが週刊少年キングを買ってきてくれて、『振り仮名があるから、これで漢字でも覚えたら』と手渡してくれましてね。そのうちに戦国時代初期の武将北条早雲を描いた連載漫画があってのめり込んだ。それが歴史への第一歩でした。噺家になってからは、古典(落語)に『源平盛衰記』があるので、歴史が落語にならないかと思って幕末・明治期の武士の榎本武揚を題材にした『五稜郭ロマン』をつくって高座にかけたのが楽しくて、以来歴史上人物の落語を創作するようになったんです」

――題材は主に戦国時代

「戦国は人間臭くて一番面白い時代。裏切りがあり忠義があり、下克上も。世の中は乱れ、何でもありの時代。たとえば、淀君は悪女、武田勝頼はあまり賢くないというのがこれまでの定説ですが、実はそうではないんじゃないのかと。勝てば官軍であり、勝った側から伝わったことが今までの歴史観ですが、それだけじゃないだろうと。負けた側にも負けたなりの理論や正義があるのだから、そこにスポットを当ててみた。歴史の華やかな部分と闇の部分を知ることで、今という時代の良さを認識できるとも思うんです」

――登場人物5人の選定は

「(第二章の)島津義弘は、西郷隆盛と並ぶ鹿児島の英雄で、もっと知って欲しいという気持ちで選びましたね。(第三章の)武田勝頼は、信玄の息子である二世としての苦労をもっと知りたかった。好きな武将? 私の落語にもある石田三成ですね。天下分け目の『関ヶ原の合戦』では老獪(ろうかい)な家康の前に屈服。三成は理想家です。勝利イコール正義だと信じて戦いに臨んだんじゃないかな。こんなにピュアな心を持った人はいないと思うし、豊臣家にすべてをささげた一生でした。敗北によって処刑されたのは41歳。忠義という言葉がぴったりな不器用な男、三成をわれわれ日本人は知っていたほうがいいですしね」

――戦国は「淀で始まり淀で終わる」と

「戦国の男たちは出世のために人を殺してのしあがりますが、淀君は人を活かすことによって生き延びる作戦をとりました。浅井三姉妹の長女として妹を守り、三英傑(信長・秀吉・家康)と深くかかわり、豊臣秀頼を産んだ。落城を3回も経験した。時代の流れに翻弄されたドラマチックな生涯は、戦国時代を象徴する人物とも言えるでしょうね」

――ゆかりの地も巡っています

「武田信玄の菩提寺の恵林寺(山梨県甲州市)を見たときには、織田信長の大軍から焼き討ちされ、燃え盛る山門の上で快川(かいせん)和尚が『心頭滅却すれば火も自ら涼し』と言って100人以上の僧侶とともにこの世を去ったこと、また多くの人たちが時間をかけて苦労しながら、あんなに立派なお寺が建ったんだと考えると、逆に信長はなんとひどい仕打ちをしたのだと…」

――新たな新作落語も生まれそうです

「もし淀君伝を高座でやるのなら、女物の着物を羽織ってカツラをかぶり、『家康はウソばっかりついて…』とぼやくような噺にしようかな。今回の本では登場しませんでしたが、キリスト教を日本に伝えたザビエルも落語になりそう。黒紋付を着て、首のまわりにシャンプーハットを巻いて。やりますかね!」

■『桂竹丸の戦国ひとり旅』 敬文舎2200円(税込み)

淀君、島津義弘、武田勝頼、石田三成、前田利家の5人を取り上げ、それぞれの生涯を辿り、ゆかりの地を訪ねながら戦国時代とは何かを考える。約150点のカラー写真とともに系図、年表などを用い、時代背景や人物を理解しやすいように工夫されている。映画「影武者」の主役を降りた勝新太郎の逸話などを収めたコラム「戦国探検隊レポート」での〝脱線ぶり〟も読みどころ。

■桂竹丸(かつら・たけまる) 落語家。1957年鹿児島県生まれ、67歳。76年駒澤大学に入学、落語くらぶに所属。80年「お笑いスター誕生」(日本テレビ系)に出場、5週勝ち抜き銀賞獲得。81年桂米丸に入門。85年に二つ目。91年国立演芸場花形演芸会銀賞とNHK新人演芸大賞を受賞。99年真打ち昇進。2019年日本民間放送連盟賞ラジオ生ワイド番組部門優秀賞受賞。歴史物の創作落語を得意とし、20年に自作「明智光秀伝」で文化庁芸術祭賞大衆芸能部門優秀賞を受賞。タイの大学でタイ語の落語公演などを行い、タイでの落語人気拡大にも注力する。

取材・高山和久

撮影・酒巻俊介

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