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「トランプ円高」と「金利上昇」に備えよ 金融引き締めにかかる時間は一瞬 日銀の大胆な追加利上げの背景に「確トラ」現象

zakzak by夕刊フジ 2024年8月5日 6時30分

日銀は7月末に追加利上げを決めた。国際投資アナリストの大原浩氏は、その背景に米共和党のドナルド・トランプ前大統領の存在があったとみる。大原氏は、11月の米大統領選で、自国の製造業を重視するトランプ氏が勝利した場合、さらなる「円高」と「金利上昇」が予想されると指摘し、日本の政府や企業は備えが必要だと訴える。

これまで動きが鈍かった日銀が、エコノミストの予想を上回る大胆な利上げを実施した背景には、明らかに「確トラ」(確実にトランプ)現象があった。

米国の貿易赤字拡大につながる円安ドル高に対して、歴代の米政権は極めて厳しい態度で接してきた。

ところが、民主党のジョー・バイデン政権は、1ドル=160円を超える円安を静観するという異例の態度に出た。

バイデン政権はバラマキによって国民の人気を得て政権維持を図ってきたから、財政赤字拡大に伴う米国債発行を円滑に行うことに極めて関心が高い。そして、米国債の最大の保有国は、今や中国を抑えて日本である。日本の金利を低く抑えて、高い利回りを得ることができる米国債を日本に売りつけることにバイデン政権は注力した。岸田文雄政権もその意のままに動いたといえる。

トランプ氏の考え方は全く逆だ。「財政健全化」によって「米国を再び偉大な国にする(Make America Great Again=MAGA)」ことが目標である。物価上昇については「多くの国の歴史をみても、インフレは最終的に国を滅ぼす」と警戒感を隠さない。

実際、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長に「大統領選前に利下げすべきではない」と牽制(けんせい)球を投げていた。

ところが、パウエル議長は7月31日の記者会見で「9月利下げ開始もありうる」と明言した。それに先んじて日銀が利上げを決めたのは、「確トラ」を見据えた行動だといえるのではないだろうか。

トランプ氏は米国の製造業強化に力を入れている。新型の金融事業やIT産業に過度に依存してきたことが米国経済の足腰を弱くしたと考えているのだ。

そのためには「高関税」と「ドル安=円高」という手っ取り早い手法を採用するはずである。このやり方は、短期的にはともかく長期的には米国の製造業をさらに衰退させかねない。しかし、「強烈な個性」を持つトランプ氏は、このやり方を押し通すであろう。

その結果、バイデン政権下で急速に進んでいた円安の揺り戻しと、円高への動きは大きいと考えられる。

金利も同様だ。金融引き締め時の金利上昇は「爆速」であるのが通例だ。例えば、プールの水を満たすには長い時間がかかるが、それを止めるには蛇口をひねる「一瞬」しかかからないようなものだ。

2022年3月からのFRBの利上げもかなりスピードが速く、23年3月のシリコンバレー銀行の破綻など多くの問題を引き起こした。

特に日本で注意すべきなのは住宅ローンだ。米国では固定型が約9割で、変動型は約1割なのに対して、日本はまったく逆の変動型が約9割で、固定型は1割以下といわれる。「変動型」中心の日本の住宅ローンの打撃が米国をはるかに上回ることは想像に難くない。もちろん、商業用不動産のローンも「変動型」が一般的だ。

「確トラ」によって予想される「円高」と「金利上昇」にわれわれは身構えなければならない。

■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

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