いささか旧聞に属するが、衆院選(10月27日投開票)と同時に行われた「最高裁判所裁判官の国民審査」では、対象になった6人の裁判官全員が信任されたものの、「罷免すべき」という票の割合がこの20年で最も高かった。良い傾向だと思う。
かくいう私自身も、今回初めて投票用紙にいくつかの「×」を付けた一人だ。
これまでの国民審査では、裁判官一人一人の情報が的確に伝わってこなかった。公報に並ぶ専門用語や「お役所的文章」は難解で理解できず、判断するに足る情報が得られないまま白票を投じていた。完全に形骸化していたと言えよう。
今回が今までと違ったのは、事前にネットを通じて「かみ砕いた情報」を得ることができたからだ。特に、昨年社会的な論議となったLGBTにまつわる裁判に関して、各裁判官がどう対処したかは、大きな判断材料となった。
SNSなどから得た情報が示していたのは、最高裁がこれまで日本社会が維持していた秩序や文化を破壊へと導こうとしている様だった。
具体的には、2023(令和5)年7月、最高裁は、戸籍上は男性だが女性として生活する性同一性障害の職員に対する女性トイレの使用制限をめぐる国の対応を全員一致で「違法」とした。これを受けて、経産省は、性同一性障害の職員にすべての女性トイレの利用を認めている。同職員は、性別適合手術は受けていない。
同年10月には最高裁大法廷が性別変更のために必要とされてきた「生殖不能要件」を「違憲で無効」とする判断を下した。生殖機能をなくす手術は、「制約として過剰。必要かつ合理的とはいえない」として「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とうたった憲法13条に違反すると結論づけた。
一見もっともらしいが、その実、性別変更へのハードルが低くなり、男性としての生殖能力を持つ「自称女性」を公認することになる。一度公認されれば、その流れに拍車がかかるのは必定だ。
今般の国民審査で示されたのは、このような判決に対する「国民の強い危機感」だったのではないか。目覚めた国民が行動するのが早いか、社会が解体するのが早いか、気がつけば日本は今、その瀬戸際に立たされている。 =おわり
■葛城奈海(かつらぎ・なみ) 防人と歩む会会長、皇統を守る国民連合の会会長、ジャーナリスト、俳優。1970年、東京都生まれ。東京大農学部卒。自然環境問題・安全保障問題に取り組む。予備役ブルーリボンの会幹事長。著書・共著に『国防女子が行く』(ビジネス社)、『大東亜戦争 失われた真実』(ハート出版)、『戦うことは「悪」ですか』(扶桑社)、『日本を守るため、明日から戦えますか?』(ビジネス社)。