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ニュース裏表 安積明子 国政動かした〝秘密の部屋〟各界の人材集った料亭「佳境亭」 竹下登氏・小渕恵三氏・野田佳彦氏も入った「総理になる部屋」

zakzak by夕刊フジ 2025年1月29日 6時30分

本連載も今回が最後だ。「とっておきの話」を書きたい。

かつて、衆院赤坂宿舎の裏手に「佳境亭」という料亭があった。1階は小さな部屋と割烹(かっぽう)料理屋、2階に広間と女将(おかみ)さんの部屋という間取りだった。

その4階に、「総理になる部屋」と呼ばれた和室があった。もともとは女将さんの個人的な居室として設計されたものだが、政治家の極秘の会合にしばしば使われた。

「この部屋に入ると、総理大臣になる」―。亡くなった女将の山上磨智子さんからそう教わった。竹下登元首相や小渕恵三元首相など、その部屋に入って首相になった例は枚挙にいとまがない。

自民党と社会党、新党さきがけの連立による村山富市内閣を成立させる〝談合〟も、佳境亭で行われたようだ。調整に尽力した亀井静香元建設相に頼まれ、山上さんは一晩、お店の鍵を貸している。

忘れられないのは、2011年8月の民主党代表選だ。

下馬評では海江田万里氏が最有力だったが、当選したのは「ドジョウ演説」を行った野田佳彦氏だった。野田氏はその前、佳境亭で前原誠司氏と一本化について話し合ったが、双方譲らずに決裂した。

前原氏が帰った後、仲介役の藤井裕久氏が「野田を〝あの部屋〟に入れてやってくれ」と山上さんに頼んでいる。山上さんは当時、筆者に自信たっぷりにこう言った。

「野田さん、総理になるわよ。〝あの部屋〟に入ったんだもの」

結果はその通りだった。

佳境亭は、各界の人材が集う場所だった。昨年11月に亡くなった伊藤直彦元JR貨物名誉会長もその一人だ。国鉄改革でJR貨物に転じ、二酸化炭素削減のため、長距離・大量輸送をトラックから鉄道輸送へ転換する「モーダルシフト」の推進に寄与した。

伊藤氏は、東大の同級生で「ミスター円」こと榊原英資元財務官の紹介で訪印した際、インドの産業拠点「DMIC」構想に絡み、米国によるディーゼル方式採用を検討するマンモハン・シン首相(当時)に、環境面のメリットがある日本の電化方式を導入するよう説得した。

ディーゼル方式だと貨物を上に積載できるが、電化方式は架線が邪魔になる。そこで車高を低くして積載スペースを確保するなどの工夫についても説明した。そして、インドは日本方式を採用した。

ビジネスでは、民間競争の末に〝業界標準〟と認められた規格「デファクト・スタンダード」を握る側が有利になり、国益にもつながっていく。

佳境亭は2012年に閉店し、山上さんも翌々年に亡くなった。先人の思いに触れることができた場所の記憶は、しっかりと心に刻まれている。 (政治ジャーナリスト)

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