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小林至教授のスポーツ経営学講義 世界少年野球大会で王貞治さんの献身的な姿勢に感銘 深刻な子供の〝野球離れ〟中学はほぼ半減、次世代に継承する組織作りが急務

zakzak by夕刊フジ 2024年9月5日 6時30分

この夏、福岡で開催されたWCBF(世界少年野球推進財団)の大会に足を運んだ。私が会長を務める一般社団法人スポーツマネジメント通訳協会から2名の通訳を派遣しており、その陣中見舞いが目的だったが、何よりの楽しみは野球の神様、王貞治さんに久々にお目にかかれることだった。

WCBFは王さんとハンク・アーロンさんが共同で1992年に設立した財団法人で、野球を通じて世界中の子どもたちに友情と親善の輪を広げることを目的にしている。毎年夏に世界中から野球を愛する少年少女たちが招待され、元プロ選手の指導のもとで少年野球教室や国際親善試合が開催されている。

特に今年はコロナ禍で一時中断されていた「世界少年野球大会」が5年ぶりに再開され、30回目の記念大会として盛大に開催された。これまでに参加した6000人近い子どもの中からは、WBC代表メンバーに成長した選手も出ており、前回大会で日本の野球ファンを魅了したチェコ代表のヤクブ・ハイトマルを含め4名がWCBF卒業生である。

酷暑の中、84歳とは思えないほど力強く、子どもたちを一人ひとり丁寧に指導し、引きも切らないサインや写真撮影に応じる王さんの姿に心打たれた。30分ほど昔話や今年のホークスなど他愛のない会話をした。野球人なら誰でもそうだと思うが、王さんと時間を共にできることは、この上ない喜びである。

それにしても、王さんも憂いていたが、日本における子どもの野球離れは深刻である。甲子園やNPBは依然として人気を博しており、日本は昨年のWBCで世界一に輝いたが、それはあくまでトップレベル、観る野球の話で、する方となると野球を取り巻く環境は厳しくなる一方である。

高校野球の人口は硬式・軟式合わせて2014年がピークの18万人で現在は14万人。単独参加が困難な高校が続出している。わが母校、神奈川県立多摩高校も2年前には9人ギリギリに追い込まれた。中学は07年の34万人でピークアウトして現在は18万人、ほぼ半減である。

こうした状況を変えるためには、サッカーでいえばJFAのような垂直に統括する競技団体(通称NF)が必要だが、ご存知の通り野球にはそれがない。プロアマ合同で日本野球協議会を立ち上げるなど、ないなりの努力と工夫はしているが、他競技のように競技者・指導者・愛好者を包括的にデータベース化しているわけでもなく、組織的なプッシュ型の普及活動は困難だ。そうなると引き続きプル型になる。

つまり、MLBとNPBと甲子園の発するまばゆい光にひかれて興味を示した少年少女に、野球を継続してもらうためには、それぞれの地域で培われた草の根ネットワークに頼ることになるが、ネックは活動資金である。野球にはアマチュアリズムの考えがいまも根強く残っており、商業目的の発信や営業は厳しく制限されている。他競技はアマチュアリズムを廃し、SNSを駆使した創意工夫あふれる資金集めに熱心に取り組んでいる。野球界もそろそろ考える時期だろう。

シーズン制も検討すべきだ。これは野球に留まらずスポーツ界全体で取り組むことだが、少子化が急加速しているなか、他競技との二刀流、三刀流を推奨して、人数不足をお互い補うのだ。欧米の学生スポーツではシーズン制が当たり前である。

WCBFで王さんの献身的な姿勢を目の当たりにし、私自身も愛してやまない野球をどう支え、次世代にどう継承していくか、思い巡る今日この頃である。 (桜美林大教授・小林至)

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