順天堂大学大学院・井手久満特任教授に聞く
男性ホルモンのテストステロンが減少することで引き起こされる男性更年期障害(LOH症候群)は、肥満や生活習慣病の悪化、睡眠障害などとも関係が深い。その陰に、別の病気が潜むことがある。
50代のCさんは、朝の目覚めが悪くなったと感じていた。疲労感が抜けず、職場に行っても頭がボーッとして会議の途中で睡魔に襲われる。早めに寝ても、朝起きたときには疲れが残ったまま。そんな状態が続いていた。
見かねた50代の妻が「男性更年期障害じゃないの?」と心配した。妻も更年期障害の症状に悩み、婦人科を受診して治療を受けていたため、夫の不調もそうではないかと考えたのだ。
ネット検索で見つけた男性更年期障害質問票(AMSスコア)を試してみると、Cさんは「中等度」にあてはまったため、妻の勧めでメンズクリニック外来を受診した。問診や血液検査を経て、医師からは、やはり男性更年期障害と診断された。それと同時に「睡眠時無呼吸症候群」の疑いがあるとも指摘され、呼吸器内科を紹介されている。詳しい検査を受けた結果、重度の睡眠時無呼吸症候群であることがわかった。
「男性更年期障害は眠りが浅いなどの睡眠障害を伴いますが、肥満で睡眠障害を抱えている人は、しばしば睡眠時無呼吸症候群が原因のことが多いのです」
こう解説するのは、順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科学デジタルセラピューティクス講座の井手久満特任教授。日本メンズヘルス医学会の理事などを務め、LOH症候群診療の手引き作成委員会の副委員長でもある。
「睡眠時無呼吸症候群で睡眠の質が落ちると、夜間に分泌されるテストステロン量が減ります。また、睡眠時無呼吸症候群は肥満との関係が深いのですが、肥満でもテストステロン値は減ります。つまり、睡眠時無呼吸症候群の人のテストステロンが減り、結果的に男性更年期障害を引き起こすパターンも珍しくはありません」
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に気道が塞がることで無呼吸になり、無意識のうちに覚醒して大きないびきとともに気道を開くことで深く眠れず、睡眠の質が低下する。その治療で用いられているのが、経鼻的持続陽圧呼吸療法(CPAP=シーパップ)=イラスト=だ。空気を持続的に送って気道を広げることで、睡眠中の無呼吸を改善する。
Cさんは、睡眠中にCPAPを装着するようになった。同時に、医師の指導で肥満を解消するための食生活の見直しにも着手。結果として減量に成功し、1年後にはCPAPも不要になり、男性更年期障害も解消した。
「睡眠時無呼吸症候群を改善すれば、自然にテストステロン値は上がります。肥満も解消できれば、男性更年期障害だけでなくメタボリックシンドロームも改善できるでしょう。男性更年期障害を疑ったときには、適切な治療と食生活の見直しで改善できます」
AMSスコアが悪いときには、メンズヘルス外来を活用して、潜んでいる他の深刻な病気も改善するきっかけにしてほしい。 (取材・安達純子) 【あすは「夜間多尿を防ぐ」です】
■井手久満(いで・ひさみつ) 順天堂大学大学院医学研究科泌尿器科学デジタルセラピューティクス講座特任教授。医学博士。1991年宮崎大学医学部卒。カリフォルニア大学ロサンゼルス校ハワードヒューズ研究所、帝京大学医学部泌尿器科学准教授、獨協医科大学埼玉医療センター教授などを経て2023年から現職。