自民、公明の与党と国民民主党の政策協議が本格化した。真の意義は、窮地に立つ石破茂政権の延命ではなく、不毛なバラマキ偏重財政を減税主導に転換できるかどうかにある。
歴代政権は長年、当初予算で増税や政策支出を削減する緊縮を行い、景気が悪化すれば景気テコ入れのための大型補正予算を慌てて組むパターンを繰り返してきた。当座しのぎ、一過性であり、家計消費を中長期的に拡大させる効果に欠ける。バラマキは砂漠の水まき同然、終われば元の木阿弥(もくあみ)、デフレから脱却出来ないまま30年間近くも無駄金を使ってきた。残ったのは政府債務の膨張と勤労世代の疲弊である。
グラフは惨状を端的に示す。1990年を100とする消費者物価と実質賃金の指数であり、1997年以来、3度の大型消費税増税と照合させている。一目瞭然、消費者物価は消費税増税のたびに一時的に押し上げられるが、2022年後半からはエネルギー輸入コストの上昇や円安の影響で上昇に加速がかかった。
実質賃金は1997年をピークに多少のアップダウンを繰り返しながら下落し続けている。98年から2012年までの間は物価の下落幅以上に賃金が下がる。14年以降23年までは物価上昇に賃金上昇が追いつかない。今年は春闘で5%台の賃上げがあり、物価上昇率を上回ったが、実質賃金の長期的な下落トレンドを逆転させる勢いはみられない。今年8月までの年間平均実質賃金は27年前よりも16%も低いのだ。
以上のデータから見ても、今回の衆院選で20歳代、30歳代を中心とした勤労世代が自公政権に愛想をつかし、所得税減税や消費税率引き下げ、社会保険料負担軽減による手取りの大幅増をうたう国民民主支持に回った理由がよくわかる。
立憲民主党は議席数を伸ばしたが、比例区で獲得した票の伸び率は国民民主に圧倒されている。立民の野田佳彦代表は民主党政権の首相として大型消費税増税を仕組んだ張本人である。今回の選挙で本格的な減税には背を向け、バラマキ型の給付付き税額控除でやりすごそうとした。若者にはそっぽを向かれるはずである。
国民民主は自公との協議では強い立場にあるが、減税反対派が立ちはだかる。緊縮財政主義の財務省に寄りそう与党幹部、経済学者と一部メディアで、一様に財源難、政府債務を問題にし、将来世代にツケを回すなと主張する。国民民主の玉木雄一郎代表が真っ先に提起する所得税の基礎控除103万円の178万円への引き上げについて、林芳正官房長官は「7兆~8兆円の税収減になる」と警告すれば、日経新聞が同調する有り様だ。抵抗勢力は財政を単なる差し引き計算でしか考えない。年収103万円以内に勤労収入を抑制していた働き手が活気づくことで人手不足が緩和し、家計も楽になるという経済のダイナミズムを無視している。
「103万円の壁」除去はバラマキ型を減税型主導に転換する第一歩でしかない。玉木代表が中途半端に妥協しないのは民意なのだ。
(産経新聞特別記者)