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山下裕貴 有事警戒・台湾訪問 金門島の防衛(下)中国・福建省から海底送水管で水の供給 大きな河川が存在せず 有事に送水遮断なら危機的な水不足に

zakzak by夕刊フジ 2024年8月3日 10時0分

台湾の離島、金門島の住人の危機意識はどうなっているのか。

島内で利用したタクシーの運転手に「目と鼻の先に共産中国が見えて怖くはないのかと」と聞いた。運転手は「(中国の軍事的圧力や宣伝戦に)もう慣れてしまって特に何も感じない。もし何か起こってもどうしようもない。なるようになれだ」と語った。

別の運転手には「景気はどうか」と質問した。この運転手は「コロナの時期よりはマシだが、(頼清徳新政権への圧力から)中国大陸からの観光客がまったく来なくなった。今は台湾本島からの客だけだ。それも少ない。景気はあまり良くないな」と静かに語った。

金門島内で最も栄えている町、金城鎮(きんじょうちん)のホテルに宿泊した。土産店や露天商が軒を連ねる市場、小ぎれいな喫茶店やレストランなどが立ち並ぶ繁華街があるが、観光客の姿を見かけることがなかった。

夕食のためにホテル近くの海鮮レストランに入店した。アルバイトの女子大生に有事について質問した。

「私は台北市から金門大学に国内留学している。入学に際して両親から引き留められるようなことはなかった。(戦争は)怖いが、今は勉強のことしか考えていない」と笑顔で答えてくれた。

聞くところによれば、島内には国立金門大学があり、他に国立高雄大学を入れて3つの大学がキャンパスを置いているという。唯一、住民の生活のなかで有事を感じさせられたのは宿泊先ホテルの地下が防空壕(ごう)になっていることだった。

金門島には慢性的な水不足という死活問題がある。同島には大きな河川が存在せず、もっぱら地下水に頼っていた。これ以上のくみ上を行えば塩分が混じるということもあり、2015年、国民党の馬英九政権時代に中国側からの給水事業が動き始めた。18年、福建省の龍湖ダムから海底送水管で送水が開始され、現在は日量約2万トンの水が金門島の金沙鎮(きんさちん)にある田浦水庫に供給されている。有事の際に、送水が遮断されれば金門島は危機的な水不足となる。

頼政権のブレーンである大学教授は「国民党は金門島(馬祖・東引島含む)の防衛については関心が高い。それは大陸への反攻拠点だからだ。民進党はその点では関心が低い。そもそも、金門島は台湾領ではなかったからだ(日本統治下にも入っていない)。今は澎湖諸島(ほうこしょとう=台湾島の西方約50キロに位置する)の防衛に力を入れている」と語った。

離島防衛が、政党の考え方により左右されるという現実を見て驚いた。

■山下裕貴(やました・ひろたか) 1956年、宮崎県生まれ。79年、陸上自衛隊入隊。自衛隊沖縄地方協力本部長、東部方面総監部幕僚長、第三師団長、陸上幕僚副長、中部方面総監などの要職を歴任。特殊作戦群の創設にも関わる。2015年、陸将で退官。現在、千葉科学大学客員教授。新聞やテレビ、インターネット番組などで安全保障について解説している。著書に『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』(写真、講談社+α新書)、『オペレーション雷撃』(文藝春秋)。

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