自公連立政権は10月の衆院選の結果、衆院では過半数に満たない少数与党に転落した。
石破茂首相は24日の臨時国会閉会に際しての記者会見で、「他党に意見を丁寧に承り、可能な限り幅広い合意形成を図るように一生懸命努力した。熟議の国会にふさわしいものとなった。『ハング・パーラメント(宙ぶらりん議会)』の良さを最大限に生かして、目指すべき日本を確立したい」と述べた。
「熟議」とはよそ行きの言葉で、実態は野党との「妥協」でしかない。現に、臨時国会では数々の妥協と野党の要求の丸のみがあった。宙ぶらりん議会の「良さ」などあるはずもない。
石破首相は臨時国会終盤の16日、周囲に「これが少数与党ってことだよ。選挙に負けた俺の責任なんだよな」と語ったという(産経新聞25日付)が、こちらの方が本音だろう。
主導権を終始、野党に握られ、「やりたいこと、やるべきことができない」とも語ったという(同右)。
少数与党の哀しさで、大が小の要求を飲まなければ、政権運営が立ち行かないということだが、これでは政治に国民の思いや願いが反映されない。少数意見が多数意見を引きずることを意味するからだ。民主政治の否定でもある。
「熟議」には時間も手間も掛かる。丁寧で幅広い合意形成も結構だが、内政も外交も悠長な調子では乗り切れない。国際情勢は日本の政界の特殊事情を考慮してくれない。対応するには、やはり政府としての強い「推進力」が必要だ。それが削がれていることを臨時国会は見せてくれた。
年明けにはドナルド・トランプ氏が米国大統領に再登板する。
安倍晋三元首相の妻、昭恵さんが訪米し、トランプ夫妻主催の夕食会で取りなしたこともあって、トランプ氏も「日本の首相には敬意を持っている」と発言するようになった。
だが、トランプ氏の想定する敬意を持つべき「日本の首相」とは安倍氏のような力強いリーダーだろう。野党に引きずられるような石破首相にまともに対応するのか。ロシアのウラジミール・プーチン大統領や、中国の習近平国家主席、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記も同様だろう。
韓国も尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の「非常戒厳」宣布の失敗により、政情が流動化している。政権交代し、「反日」色の強い大統領が登場する可能性も高い。来年の戦後80年に当たり、植民地解放を祝すとして「歴史戦」を仕掛けられることも想定しなければならない。これに中国は必ず参戦する。日本国内の「反日」勢力との共闘もあろう。
石破少数与党政権はこれにも「熟議」で対応するのか。
■八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学院政治学研究科博士後期課程研究指導認定退学。専攻は憲法学。第2回正論新風賞受賞。高崎経済大学教授などを経て現在、麗澤大学教授。山本七平賞選考委員など。安倍・菅内閣で首相諮問機関・教育再生実行会議の有識者委員を務めた。法務省・法制審議会民法(相続関係)部会委員、フジテレビジョン番組審議委員も歴任。著書に『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)など多数。